3つめの「チームワーク」。これが一番難しい。この本が目指す「チームワーク」とは、チームとして意思決定をし、チームが自立していくというものです。要は、「チーム内で意見を出し合い、議論をして意思決定できるフラットな組織文化をつくりなさい」ということなのですが、ここが本の通りにいかない。日本には上下関係をつくってしまう言葉の文化があるからです。米国では上司と部下でもIとYouで呼びますが、日本には敬語があり、どうしても組織が縦社会的になってしまう。そこで、社内ではポジションで呼ぶことを禁止し、後輩にも必ず「さん」付けをすることを義務化しました。また、日々の行動でも「偉い人信号」が出ないよう、フリーアドレスのデスクにしたり、タクシーに乗る順番を廃したり、いろいろな工夫をしました。

『Leading A Family Business』
ジャスティン・クレイグ、ケン・ムーアス著 ファミリービジネスの名著。日本語版は、2019年プレジデント社から刊行予定。

本の通りに実践をはじめたものの、すぐに成果が得られたわけではありません。ですが、試行錯誤しつつ進めた結果、次第に社員たちが自発的に動くようになり、業績の向上に結びつくようになったことが、いまの星野リゾートにつながっています。

いま、私の関心事の1つに「事業承継」問題があります。企業数の9割以上をファミリービジネスが占める日本では、後継者不足や高齢化により事業承継が難しくなっていることが、大きな課題の1つとなっています。

「ファミリービジネスの事業承継」問題こそ、「定石」がないように思えますが、米国では研究が盛んに行われています。こうした新しいビジネス課題に即した理論の「教科書」が、日本の書店で入手できるといいなと考えています。

▼星野流・読書を実経営に生かす3ステップ
STEP 1:抱えている経営上の課題を絞る
直面している悩みだからこそ読んで成果が出る
STEP 2:書店のビジネス書コーナーで本を選ぶ
冒頭30Pを読み、悩みを解決できる本かを見極める
STEP 3:本の内容を忠実に実行する
「こんなことできない」と言い訳をせずにやってみる

「プレジデント」(2018年10月15日号)の特集「ビジネス本総選挙」では、読者1万人の声をもとに仕事に役立つ100冊を紹介しています。1位の『道をひらく』はRIZAPグループの松本晃COO、2位の『君たちはどう生きるか』は池上彰さん、3位の『生き方』は京セラの山口悟郎会長に解説をお願いしました。ぜひお手にとってご覧ください。

星野佳路(ほしの・よしはる)
星野リゾート 代表
1960年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、コーネル大学大学院修士課程修了。91年に家業である星野温泉の4代目代表に就任。社名を星野リゾートに変更し、日本各地でホテルや旅館の運営を行う。
(構成=井上佐保子 撮影=大槻純一)
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