ここまで20代、40代、60代とそれぞれで男女別に恋の悩みを見てきましたが、さまざまな生活者の欲求のヒントを得ることができたと思います。エスノグラフィはn=1、一人ひとりの発言や行動に注目することに重きを置いているので、出てくるものは基本的に仮説です。だからこそ、時系列データやマクロデータなどの定量データでの検証や、社会的な事象とも関連付けて背景を探っていくことが重要で、それはデジタルデータを活用したエスノグラフィ、デジノグラフィでも同じであることが実際に行ってみてよくわかりました。

また、デジタルデータであるがゆえに、恋の悩みのような定性的な情報も、ある程度の定量化を行い、実際のウェブ行動に紐付けて考えることができるのも、デジノグラフィの大きなメリットです。

オウケイウェイヴの齊藤さんによると、これまでQ&Aサイトのテキスト解析は具体的な製品カテゴリーの使用法など、質問の内容がある程度絞られているものを対象とすることが多く、今回のような多様性のあるテキストを解析することは、初めてだったそうです。

マーケターの見立て力が試される

私はそれを聞いて、デジノグラフィの大きなポテンシャルを感じました。もしかするとこれまでのビッグデータ解析、行動履歴解析ではファジーすぎて分析対象とみなされなかったデジタルデータこそ、デジノグフラフィの格好の材料になりうるからです。

そうすると、やはり結果を読み解くためには分析者の仮説力、あるいは背景を洞察していく力、言い方を変えれば「見立て力」が非常に重要になります。そういう意味でも、マーケターにとって非常にやりがいのある領域です。

例えば、20代女性の恋の悩みの頻出ワードに「お酒」がキーワードにありましたが、恋愛という切り口で見た時に、どんな製品やサービスが近くにあるのか見てみるのも面白いかもしれません。さまざまなデジタルデータを使って掘りがいのあるデジノグラフィのテーマは、ほかにもたくさんありそうです。

酒井崇匡(さかい・たかまさ)
博報堂 生活総合研究所 上席研究員
2005年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、教育、通信、外食、自動車、エンターテインメントなど諸分野でのブランディング、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。2012年より博報堂生活総合研究所に所属し、日本およびアジア圏における生活者のライフスタイル、価値観変化の研究に従事。専門分野はバイタルデータや遺伝情報など生体情報の可視化が生活者に与える変化の研究。著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)がある。
(写真=iStock.com)
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