※写真はイメージです(写真=iStock.com/beer5020)

深みのある人物、ハイドン

フランツ・ヨーゼフ・ハイドンは、1732年にオーストリアに生まれた。1756年に同じオーストリアでモーツァルトが、さらに1770年にベートーベンが生まれている。彼らの活動によって、交響曲、弦楽四重奏、協奏曲といった演奏形式が発展し、今もその作品が世界中の人々を虜にしている。のちに、彼らの時代はクラシック音楽の古典派と呼ばれることになる。

中でもハイドンは、交響曲を100曲以上作曲して“交響曲の父”と呼ばれ、生涯で1000曲におよぶさまざまな作品を残した。ハイドンの作品である『弦楽四重奏曲第77番』の第二楽章に用いられた皇帝賛歌『神よ、皇帝フランツを守り給え』の旋律は、現在のドイツ国歌に用いられている。サッカーファンは、なじみがあるだろう。

クラシック音楽は、日常に溶け込んでいたり、曲名や作曲家も知らないまま口ずさんでいたりすることが多くある。ハイドンもまた、モーツアルトやベートーベンほどの知名度はないが、どんなシーンにも合わせることができる豊富な楽曲を持つ作曲家である。

ハイドンが、オフィスにピッタリな理由

驚愕の交響曲で少しシャキッとしたところで、静かに音楽をかけながら、午前の仕事に集中したい。初夏のキラキラした雰囲気とは変わって、同じ夏とはいえ、寂しさや焦燥感もある夏の終わり。そんな憂いもある時期のオフィスには、落ち着きあるピアノ曲がいいだろう。ハイドンの『アンダンテと変奏曲 へ短調』や『ピアノソナタ第36番 嬰ハ短調』が静かにかかっているだけで、なぜか落ち着き、心が整っていく。

ハイドンの楽曲は、聴いたことのあるような親しみがあり、なおかつ、洗練された居心地のよさがあるところだ。不意の来客や電話対応時に相手にオフィスのBGMが聞こえたとしても、かまわずに流していられる作曲家である。

ピアノ曲で落ち着いて仕事に集中できたら、ぜひハイドン音楽の真骨頂である弦楽四重奏を聴いてほしい。ハイドンの弦楽四重奏曲は68曲あると言われており、なかでも先に述べたドイツ国歌の元となっている第77番は有名だ。しかし、ランチタイムで一息ついて、また暑い最中をオフィスに戻ってきたときは、74番がおすすめしたい。

軽やかでキレのいいヴァイオリンとチェロの重厚な下支えが流れるように動くフレーズは、オフィスを居心地のよい空間に変えてくれるだろう。また、この楽曲は小さな音量でかけていても、聞かせどころがある。仕事の集中力が途切れて音楽に耳を傾けた際も、楽しませてくれる。また、ハイドンのどの楽曲にも言えることだが、仰々しさがなく、押し付けがましいフレーズもない。どっしり構えているような雰囲気を持っていて、モーツアルトの楽曲のような煌びやかさはない分、どれを選んでも落ち着いたBGMになってくれる。まさにオフィスや待合室向けの作曲家なのだ。

ほんの束の間、チェロに癒してもらおう

物悲しさや寂しさが漂う夏の終わり、楽しい夏の思い出を脇に追いやり、気持ちを目の前の仕事に切り替えなければいけないタイミングには、ハイドンの『チェロ協奏曲第2番』を選んでほしい。チェロ協奏曲というのは、オーケストラの中で、チェロが独奏している形態である。チェロはヴァイオリンよりも低い音が出る大きめの弦楽器で、優しく包み込むような包容力のある音がする。人の声の音域に近いと言われているので、そのあたたかみが人に心地いいのは間違いない。下半期に向け、気を引き締めるまでのほんのつかの間、助走期間としてチェロに寄り添ってもらうのもいい。

ハイドンは作曲家として間違いなく大成した人物であるが、その人生は順風満帆だったわけではない。職を失ったことも一度や二度でなく、腐らずに作品を作り続けた。若き天才モーツアルトと出会い、その作品に圧倒されながらも、一緒に演奏するなどして自身の作品を高めることを怠らなかった。わが子ほどの年齢のモーツアルトの才能を認めた度量の深さと、仕事へのプライドが垣間見える。ハイドンの洗練された音の流れは、上面だけで書かれたものでないことを感じさせる。人間の心の豊かさと、しなやかさ。華やかなものだけでない音楽の本来の価値が、BGMを通じて、じわっと伝わってくる。

ハイドンの楽曲とともに、長時間集中して業務をこなし、ふと窓の外を見ると、入道雲が夕焼けに染まるころだろうか。季節は移り変わる。人生もまた、次のシーンが待っている。ハイドンの豊富な楽曲の中から、今の自分にふさわしい楽曲を探すのも面白いに違いない。

夏の終わり、次のステージに一歩踏み出す今こそ、ハイドンが最も輝く季節かもしれない。

(写真=iStock.com)
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