このときの韓国の軍事権委譲が、今日まで続く「戦時作戦統制権」の母体となるものです。「平時の統制権」は1994年に返還されましたが、「戦時の統制権」はいまだアメリカ軍にあります。
大統領が北朝鮮の進撃におびえ、気が動転する中でアメリカ軍にすがり付いた――。韓国の「戦時作戦統制権」は、この屈辱の歴史の象徴なのです。
「自主国防」を訴えた左派大統領
この「戦時作戦統制権」こそが韓国の自主国防を妨げている最大の障壁であると国民に訴えたのが、現在の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の師であった盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領です。盧武鉉は2006年、統制権の返還をアメリカに強く求めましたが、韓国軍の能力が疑問視され、最終的には実現しませんでした。
文在寅大統領は統制権の返還と自主国防を公約に掲げ、大統領選を戦いました。しかし現実問題として、韓国軍が単独で北朝鮮と対峙することは困難です。韓国軍の現状の能力の問題だけでなく、韓国単独での自主国防には莫大な予算が必要であり、財政上、韓国政府がそれを負担することは不可能です。
韓国の保守派は、統制権の返還は在韓米軍の撤退を誘発するとして、朴槿恵(パク・クネ)大統領の時代の2014年、返還の無期限延期をアメリカと合意しました。文在寅大統領はその時、野党議員で、「軍事主権を放棄するようなことをして、恥ずかしくないのか」と与党を批判しています。統制権の背景には前述のような屈辱の歴史があり、それを払拭するため、革新左派は意地になっているのです。
在韓米軍撤退の布石に
2017年5月に文在寅政権が発足した後、統制権の返還交渉が米韓で行われ、早くも10月には、返還計画を1年以内に準備することで両国が合意しました。(*注2)統制権の返還に伴い、有事の際の米韓同盟軍の指揮系統は、司令官が韓国軍、副司令官がアメリカ軍から出される形となると措定されています。アメリカ軍が韓国軍の指揮下に入ることなどあり得ないことを考えれば、統制権の返還は事実上の在韓米軍撤退への布石と捉えるべきです。