しかし、トランプ大統領の前のめり発言で、看過できないものもたくさんあります。その一つが、会談後の記者会見で在韓米軍の縮小・撤退の可能性に言及したことです。トランプ政権はこれまで公表した「国家安全保障戦略」や「国家防衛戦略」の中で、防衛予算を大幅に拡大し、中国などの対外的な脅威に果敢に対峙する姿勢を示しています。その一方でこうした発言をすることの矛盾を、いったいどう捉えればよいのでしょう。
在韓米軍の縮小・撤退を、中国や北朝鮮は大歓迎します。問題は韓国です。文在寅政権は表向き、縮小・撤退に反対を表明していますが、本音は違います。

自国の軍の統制権がなぜアメリカにあるのか

韓国には、朝鮮戦争以来、今日まで続く「戦時作戦統制権」というものがあります。この規定により、朝鮮有事の際、韓国軍はアメリカ軍司令官の指揮下に入らなければなりません。つまり、韓国大統領や韓国軍司令官は有事の際、自国の軍の指揮権を失うのです。どうしてこのような、自らの軍を自らが統率できないという状況になっているのでしょうか。

その原点は、1950年に始まった朝鮮戦争にあります。同年6月25日午前4時、約10万の北朝鮮軍は突如、北緯38度線を越えて韓国側に侵攻してきました。北朝鮮軍の奇襲攻撃に対し、恐れをなした韓国軍は、クモの子を散らすように逃げ出します。北朝鮮軍は破竹の勢いで進撃し、開戦からわずか3日でソウル市内に突入しました。

大統領官邸はパニック状態となり、当時の韓国大統領の李承晩(イ・スンマン)は、ソウル市民を置き去りにして自分だけさっさと逃げました。李承晩は北朝鮮軍の南下を食い止めるため、漢江大橋を爆破するよう指示し、取り残された市民を無残にも見殺しにしたのです。李承晩大統領は韓国中部の都市、大田(テジョン)に逃げ、そこまで北朝鮮軍が迫ると南部の大邱(テグ)に逃げます。さらに、大邱にも北朝鮮軍が迫ると、釜山(プサン)にまで逃げました

韓国軍は指揮系統を失い、北朝鮮の進撃にまともに抗戦することもできず、アッという間に壊滅しました。李承晩はアメリカに頼るしかなく、アメリカに早く軍を派遣するよう、矢のように催促しました。

ようやく、開戦から1週間たった7月2日以降、アメリカは本格的に部隊を送り込みます。あと数日、アメリカ軍の到着が遅れていれば、李承晩の命はなかったでしょう。ぎりぎりで難を逃れた李承晩は、マッカーサー率いるアメリカ軍(正式には国連軍)に、軍の指揮権・統制権の全てを委譲しました。