私はこれまでに、被害者が死んでしまったいじめ事案を何度も調査しているが、たいていはこのように「死人に口なし」という展開になる。遺書を書いても、そのほとんどは表に出ない。加害者は「いじめはしていない」と言い張るし、その親も必死でわが子を守る。

学校と教育委員会は必ず隠蔽に走る。調査報告書の写しを保護者が情報公開請求しても、「黒塗り」だらけの書類しか出てこない。報道機関も、警察や検察、弁護士なども、死んでしまった子の人権には関心を示さず、生きている子たちの人権を守ろうとする。

部活のLINEの奇妙な書き込み

Aくんが死んだ直後、部活のLINEで奇妙な書き込みが流れた。クワガタのおもちゃが出てきたから、(A君のあだ名)という名前をつけよう、というのだ。「そうしたら何をしても死なないから」。それに対して、ふざけるな、という部員も一人もいなかった。同じ部活の仲間がおもちゃ扱いされ、尊厳を踏みにじられて、最後には死んでしまっても、誰もなんとも思っていないのだ。

私はこのLINEの書き込みの写しを役所に持っていった。「この情報をどこで手に入れたか」とずいぶん尋ねられたが、再調査につながる「新たな事実」と認められるかどうか、先方の担当者は明確に答えなかった。被害者の「生の声」がなければ、私たちの戦いはこんなにも不利なのだ。

死んだら死に損。今いじめに苦しんでいるすべての子どもたちに、このことだけは覚えておいてほしいと思う。

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阿部泰尚(あべ・ひろたか)
NPO法人ユース・ガーディアン代表理事
1977年、東京都生まれ。東海大学卒業。T.I.U.総合探偵社代表。日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー。教員免許あり(社会科)。2004年、探偵として初めて子供の「いじめ調査」を受件し、解決に導く。以後5000人以上の相談を受け、重大な問題があり、関係各所が動きが取れない状態であった330件(2015年12月現在)に上るいじめ案件を手がけ収束・解決に導き、今も精力的に「いじめ問題」に取り組む。著書に『いじめと探偵』(幻冬舎新書)など。
(写真=iStock.com)
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