偏差値60が50へ降下し「パニック」状態に

今回も同じように対応しようと思いましたが、話しているとそう簡単ではないと感じました。彼女は、「お父さんは期待しすぎです。私はもうこれ以上無理だよ」と愚痴をこぼすようになっていました。父親は穏やかな方ですが、受験日が近づくにつれ、冷静さを少し失っていたのかもしれません。ここで「家族の水族館作戦」は、逆効果と判断しました。

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彼女は、懸命に勉強しても結果が出ない不安から、模擬試験であがってしまい、「頭が真っ白になる」と訴えます。偏差値60を取っていたのに、50まで下がってしまい、このままでは受験校すべて不合格という可能性もあります。「えっ、どうして?」と普段の様子からは考えられないような悪い成績を出し続けていたのです。

もはや気持ちをリフレッシュするというだけでは解決できない状態です。何が課題なのかを明確にして、志望校も再検討することにしました。その時に気を付けたのは、直すべき課題を2つか3つに絞りこむことです。

「問題の条件、たとえば『正しくないものを選びなさい』『すべて選びなさい』といった条件を読んでいないミスだけ直せればそれでいいから、問題の条件に丸をつけよう!」
「算数の解けない問題はできなくてもいいから、正解できそうな問題だけ選んで、2回解こう!」

すべての課題を解決しようとすると、解決はさらに遠のきます。解決できる問題だけに焦点を絞ることで、少しでも状況を好転させることを狙いました。

▼モチベーションを保つために塾講師がしたこと

志望校も再検討しました。もともと本人と父親が目指してきた学校があります。その「旗」を簡単におろすことはできません。第1志望である以上、たとえ厳しくてもチャレンジさせたい。そもそも子どもの意思を尊重せずに志望校を変えることはモチベーションを大きく下げます。そうなれば受かるはずの学校にも受からなくなるのです。

そこで本人と何度も話し合った上で、第1志望には偏差値が10以上足らないものの変更せずにチャレンジさせ、第2志望として国立の難関校をすすめました。私が第2志望候補の中で推薦した学校は、問題の難度はそれほど高くないものの、試験時間は私立より短く、合格するには高得点が必要です。偏差値はかなり高いのですが、スピードがあり、基本問題の定着度が高いこの子に向いている試験問題です。ミスが多いという怖さはあるけれど、コツコツ努力してきた彼女であればチャンスはあると踏みました。