S660やN-BOXに続くヒット商品が見当たらない
ホンダは個人のやる気や情熱を基に、ヒット商品を生み出してきた。ヒット商品とは、多くの人が憧れ、どうしても使いたい、手に入れたいと思う最終製品をいう。軽自動車スポーツカー「S660」はその一つだ。このスポーツカーは社内のコンペを勝ち抜いた入社3年目、弱冠22歳の若手エンジニアのコンセプトを実現したものだ。問題は、S660やN-BOXに続くヒット商品が見当たらないことだ。
ヒット商品を生み出すためには、研究開発に携わる個人が、自分が学んだ理論や、習熟してきた技術を思う存分発揮して、夢をかなえようとしている環境があったほうが良い。それがなければ、新しい製品を生み出し、より便利な社会を支えようとする動機は高まりづらい。
夢を追いかけ、実現しようとすることの大切さを、ホンダは航空機ビジネスの育成を通して社会に伝え、やる気ある人材の確保につなげようとしている。現在、国内の多くの企業が生き残りをかけてコストカットを重視している。中には、将来的な可能性があるものの、当面の採算性が立たないとの理由でリストラの対象になっているプロジェクトもあるだろう。
ホンダジェットのケースを振り返ると、最先端のテクノロジーや理論を用いて、新しい商品を生み出そうとする個人の取り組みを支えることの大切さがわかる。夢の実現をサポートし、それを通してヒット商品、新事業の育成につなげることは企業全体の活力を高めるためにも意義あることだ。その点で、ホンダの航空機事業がどのように飛躍していくかに注目したい。
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。