両国に貿易戦争の意図はない

今後の最大の注目点は、今回の米中貿易摩擦が本当に貿易戦争に発展してしまうのかどうかある。まず、米国側の真意を探ってみたい。

米国では税制改革法が2017年12月に成立し、歳出規模1兆3000億ドルの2018会計年度予算が2018年3月に成立した。経済対策に早々に目途をつけたトランプ米政権は、2018年11月の中間選挙を控え、軸足を通商政策へ移し、年明けから強硬な施策を矢継ぎ早に打ち出した。つまり、トランプ米政権のタカ派的な通商政策は、「中間選挙に向けた支持固め」という側面があると考えられる。

また、米国は貿易赤字問題以上に、中国がハイテク分野で存在感を高めることに強い危機感を抱いており、早期に「知的財産権を保護する枠組みを作る」ことが念頭にあると思われる。その具体的なアプローチとして、中国に強力なカード(制裁発動)を突き付けて協議に持ち込み、有利な条件を引き出すトランプ流の交渉術が用いられていると解釈できる。

次に中国側の真意を探ってみたい。中国では3月20日、国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が閉幕し、習近平主導部の2期目が本格始動した。習国家主席は演説において、国際社会を主導し、米国と対等の関係を持つ強国を目指す決意を示した。したがって、米国が制裁関税を発動する構えを見せれば、中国としては「政権の権威を保持する」ためにも、直ちに報復措置を公表せざるを得ない。

なお、習国家主席は4月10日、中国海南省の博鰲(ボーアオ)で開催されたアジアフォーラムにおける講演で、外資に国内市場を開放する方針を示した。具体的には、(1)外資出資規制の緩和、(2)外資の投資環境の整備、(3)知的財産の保護強化、(4)輸入拡大、の4点が掲げられた。これらの措置は米国との貿易摩擦の緩和をにらんだものと思われるが、従来方針の焼き直しも目立つ。それでも自由貿易推進の姿勢を示すことは、保護主義的な米国との立場の違いを世界に訴えることができる。中国側にはその狙いもあろう。

おそらく、これらが米国と中国の実情であり、少なくとも無秩序な貿易戦争を仕掛ける意図は両国にはないと考える。実際、双方とも制裁措置の発動は一部猶予しており、水面下での協議を進める意向がうかがえる。現実的な落としどころとしては、「互いの経済が損害を受けない程度の関税引き上げ」、「特定の分野や製品に絞り込んだ市場の開放」、「知的財産権を保護する枠組み作りに向けた合意」、などが考えられよう(図表3)。