このような採用選考活動は、ほぼすべての企業で共通しているので、そこに問題があることにはなかなか気づきにくい。しかし、現状での採用選考活動は、「企業にとっても、大学にとっても、そして、何よりも学生にとっても不幸な仕組み」(大手人材関連企業の元社長の言)である。

今回は、現状の採用選考活動の不経済性を、取り上げて説明する。

企業にとっての、採用選考活動のコスト・ベネフイット分析

新卒者採用に企業は、驚くほど多くの資源を投入している。それは、現金支出を伴うもの(企業内求職サイトの維持・運営、企業広告、企業説明会・業界説明会に出席する社員、リクルータや面接対象となる学生の交通費・宿泊費など)に加えて、現金支出を伴わない機会コスト(例えば、役員面接のための役員の拘束時間は、この時間を活用すれば得られるかもしれないメリット、例えば、トップセールスによる新規取引の獲得、講演会や読書を通じて得られる知見等を犠牲にしているという意味で、多大な機会コストが生じている)が発生している。

現状では、多大の努力を通じて獲得した新卒者は、3年以内に採用者の3分の1以上が、退社している。900名採用しても、300名以上が退社する、つまり、600名を確保するために900名に多数の応募者を絞り込むために投入される資源や時間が割に合うかどうかを考えてみるべきだろう。

役員面接や人事部の採用選考活動に関わる機会コストに加えて憂慮すべきなのは、若手社員のリクルータとしての活用である。将来を嘱望される採用者に対して企業がなすべきことは、徹底的訓練とOJTによる仕事への習熟であるはずである。しかし、就職希望者と年齢が離れていない若手社員をリクルータとして起用することが、「優秀な学生」獲得に有用であるという考え(これが単なる思い込みにすぎないことは分析すればすぐに明らかになるはずである)が多くの企業に共通している。

彼らをリクルート活動から解放し、業務の基礎を徹底してたたき込むことが、人材育成の観点からもの望ましい。新規採用者の数と、現在の従業員数(入社後5年以内)を比較してみれば、どちらに企業は力点を置くべきかは自明だろう。企業が採用活動に投入する経営資源に見合ったリターンはまったく得られていない。