トイザらスのネット通販はアマゾンよりしょぼかった

ところが、この出店により、玩具販売のノウハウと顧客データを手に入れたアマゾンは、トイザらスの品揃えが十分ではないことを理由に、ほかの玩具業者もマーケットプレイスに招き入れ始めました。

そこでトイザらスも対抗して、独自にトイザらス・ドット・コムというオンラインショップを立ち上げ、ネット販売を開始しました。

ここで命運がわかれます。トイザらスのオンラインショップはとても、アマゾンに太刀打ちできるものではありませんでした。

一つは、アマゾンの自前主義の強みです。トイザらス・ドット・コムはサイトを一回つくったきり、ほとんど画面が変わらず、マンネリ化していったのに対し、アマゾンのサイトは常に画面が進化していきました。

アマゾンには、ABテストといって、たとえばAのデザインとBのデザインのどちらが顧客の購買率が高いかを常にテストし、新しいサイトをつくり続けていくというクリエイティブなルーチンが根づいています。

そして、それが可能なのは、社員の半数以上をエンジニアが占め、自分たちで要件を定義してはシステムを改修し、進化させることができるからです。

もう一つの要因は、オンラインショップでの品揃えの問題でした。リアル店舗網を拡大することで成長したトイザらスはネット販売においても、「店舗で扱っている商品が買えればいい」という発想から抜け出せませんでした。

リアル店舗では物理的制約から実現できない品揃えの豊富さにこそ、ネットならではの価値がある。アマゾンがトイザらスとの契約がありながら、その品揃えに満足できず、ほかの玩具業者をサイトに招き入れて品揃えを拡充していったのは、ネットの本質を知りつくしていたからでしょう。

アレクサ「ホールフーズを買収します」

3番目に訪れたのは、高級食品スーパー、ホールフーズ・マーケットの店舗でした。

アメリカ国内に448店舗(ほかにカナダ、イギリスで22店舗)を展開するホールフーズもトイザらスと同様、デジタルシフトでおくれをとった企業です。

アマゾンは高級食品スーパー「ホールフーズ・マーケット」を買収した。

ただ、トイザらスと決定的に異なるのは、2017年8月、アマゾンに137億ドル(約1兆5000億円)で身売りすることで、逆に店に活気が戻ったことでした。

わたしが訪ねた店舗も、買い物客でかなりにぎわっていました。

ホールフーズといっても、日本人には耳慣れない名前ですが、この買収が発表されるや、全米のテレビ、新聞、ネットニュースがこの話題でもちきりになるほど、アメリカ人にはなじみの深い存在でした。

リアルの世界での著名企業が、デジタル時代の先頭を走るアマゾンによって買収された。

ツイッターに書き込まれて話題を呼んだアマゾンのCEO、ジェフ・ベゾスとアマゾン・エコーとの次のような架空のやりとりは、今回の買収劇を象徴しています。

ベゾス「アレクサ、ホールフーズでなにか買って」
アレクサ「承知しました。ホールフーズを買収します」

デジタルシフトにおくれると、エコー経由で商品を買うのと同じくらい、いとも簡単にアマゾンに買収されてしまうと。

ホールフーズの業績を過去10年のスパンで見れば、店舗数、売り上げともにのびていました。ただ、最近は2年連続で営業利益が減少し、既存店売上高も減り続けていました。