偉い人が「下々」にありがとうと言わないツケ
次の会議で、私は、この話を幹部たちに話して聞かせた。
「この建物で働く人に対し、敬意や思いやり、優しい一言をもって接して悪いということはありえない。どの職員も欠くことのできない人だ。どの職員も、そういうふうに見られたいと思っている」
脳外科手術のように難しい話ではない。組織に属する人は一人ひとりに価値があり、その価値を認められたいと思っている──それだけのことだ。人間というのは、承認と励ましを必要とする。毎晩、私の執務室を掃除してくれる人は、大統領や将軍、政府閣僚と同じ人間である。だから私はありがとうと一声かける。それだけのことをしていると思うからだ。自分のことを単なる掃除人だなどと思ってほしくない。彼らがいなければ私は自分の仕事を全うできない。国務省全体が彼らの肩にかかっていると言っても過言ではない。組織が成功するとき、その仕事にくだらないものなどない。ただ、これほどわかりやすく、簡単に実行できる原理を理解できない、くだらないリーダーが多すぎるだけだ。
1937年、ニューヨーク市生まれ。ニューヨーク市立大学卒、ジョージ・ワシントン大学大学院修了。89年、米軍制服組トップの統合参謀本部議長に就任、湾岸戦争などの指揮を執った。2001~05年、ブッシュ(子)政権の国務長官を務めた。本記事で紹介した談話は、トニー・コルツとの共著『リーダーを目指す人の心得』からの抜粋である。