趣味一本に人生もアイデンティティも懸けてきた人が、無病息災に趣味ざんまいの生活を続けられる保証なんてどこにもありません。先に述べたように、年を取ってくるにつれてサブカルチャー趣味は若い頃と同じようには楽しめなくなってくる部分が出てきて、変化を強いられる部分も出てきます。なにより、健康問題をはじめとしたいろいろな事情に追い立てられて、趣味生活が持続できなくなり、気が付いたら無趣味の人になっている可能性すらあり得るのです。

多くを懸けてきた趣味の持続が困難になった結果、アイデンティティの大黒柱を失った、空っぽのおじさんおばさんが爆誕することになります。

それでもあなたが趣味一筋で生きていくと決意しているとしたら……「頑張ってください」としか言いようがありません。

手を抜いて楽しむ人をむやみに軽蔑するな

若い頃に威勢の良いことを言っていた愛好家が、加齢や諸事情によって趣味人として衰えていくのを私は幾度となく見てきました。趣味にアイデンティティを全賭けした人生が、どれほど危険で長続きしにくいかは知っているつもりです。それでもなお、自分の愛するジャンルの道へ全力前進する人には、どうかいつまでも健在でいてくださいと祈るほかありません。収入源や健康にもしっかり気を遣って、初心を貫徹してください。

しかし、いざとなったら思い出してください。いま、すごく楽しみにしている趣味が10年後にはあまり楽しくなくなったら、やめてしまったっていいのです。手を抜いたほうが良いかなと思ったら手を抜くべきですし、そういう手抜きな楽しみ方をしている人のことも、むやみに軽蔑しないでください。趣味人として、少しずつ弱っていく年上の人を反面教師として敬遠するのも良いですが、いざとなったら彼らの保守的な趣味生活をコピー・アンド・ペーストしたって構わないのです。いつか、自分の好きなものとの付き合い方を変えなければならなくなったときに参考になるのは、肩の力の抜けた趣味生活を続けている人たちです。

楽しみだったはずの趣味に人生を束縛されるあまり、後半生が苦しくなってしまっては、本末転倒というほかありません。

熊代亨(くましろ・とおる)
精神科医
1975年生まれ。信州大学医学部卒業。専攻は思春期/青年期の精神医学、特に適応障害領域。ブログ『シロクマの屑籠』にて、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信し続けている。著書に『ロスジェネ心理学』『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)、 『「若作りうつ」社会』(講談社現代新書)、『認められたい』(ヴィレッジブックス)がある。
(写真=iStock.com)
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