勝訴しても1円も回収できず費用だけかかった

額が大きいトラブルなら持ち出しのリスクは低いから大丈夫、と考えるのも早計だ。たとえ多額の支払いが判決で認められても、相手に資力がなければ絵に描いた餅になりかねない。

とくに注意したいのは、経営状態が悪い会社を相手に起こす売掛金などの債権回収訴訟だ。こちらの主張が認められて、支払いを命じる判決が出ても、その会社にお金がなければ回収は困難である。破産などの倒産手続きに移行した場合、配当などがもらえる可能性はあるが、多くの場合は債権額全額には届かない。

被告が個人の場合も、相手に資力がないとつらい。毎月定収入があるサラリーマンや公務員なら、比較的回収はしやすいが、実態がつかみづらい自営業者や、自分の稼ぎを持たない専業主婦が相手だと、勝訴しても1円も回収できず、費用だけがかかったということもありうる。

また裁判には、長い時間を要するものもある。たとえば、離婚や相続などの調停や訴訟では、各自の言い分がまとまらず、解決に年単位の時間を要することも少なくない。もし弁護士との契約が作業時間によって支払うタイムチャージ制であれば、長引くほど費用はかさんでいくし、タイムチャージでなくても、日当などが無視できない額になることもある。最終的に自分の主張が通っても、疲弊してしまうかもしれない。

裁判という選択肢を考えるとき、本人の納得感を得られるかどうかが非常に重要だ。だから、金銭的に見合わないとか、時間がかかるからといって、「争うだけムダ」ということではない。しかし、裁判の結果に後悔しないように、事前に費用や見通しに関する「リスク」をしっかり把握しておくことは肝要だろう。

×:勝訴時に手にできるお金が、弁護士費用より高いと持ち出しに
○:少額の被害があきらめられないなら、被害者を集めて集団訴訟を起こす

上村 剛
弁護士
テレビ局で番組制作に携わった後、法科大学院を経て2008年弁護士登録。東京丸の内法律事務所にて訴訟事件を含む企業法務・一般民事、倒産、知的財産権(著作権など)等を扱う。
(構成=村上 敬 写真=PIXTA)
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