タレントや政治家らの「不倫」が次々と取り沙汰されている。しても、されても、行きつく先は修羅場だろう。では、そうした修羅場では、いくらのカネが動くのか。最新「慰謝料事情」について、東京暁法律事務所の中里和伸弁護士と野口英一郎弁護士に聞いた――。

裁判官によって真逆の判断もある

今では、妻が夫の浮気相手に慰謝料を請求することは珍しくありませんが、戦後間もなくまでは、不貞相手に対して慰謝料を求める原告は、夫が圧倒的に多いものでした。この流れを大きく変えたともいえるのが、1962年の、夫の浮気相手に30万円の慰謝料を妻へ支払うよう命じた裁判例です。国家公務員の初任給が1万5700円の時代ですから、現在の貨幣価値に換算して300万~400万円になります。この判決は新聞記事にもなり、『妻が夫の愛人に対して行った慰謝料請求が認められた例は珍しい』と書かれています。

不倫の裁判では、同じようなケースでも裁判官によって真逆の判断をされる場合もあります。例えば3年前、夫と不貞行為を行ったクラブママに対して慰謝料請求を求めた裁判が話題になりましたが、東京地裁は「枕営業」にすぎないとして「不倫」とは認めませんでした。

しかし、過去の同種の複数の裁判例では「不倫」にあたる判断を示しています。ほかにも「大好き」等と愛情表現を含めたメールが不法行為にあたるかが争われた複数の裁判でも、裁判所の判断は分かれています。

不倫は民法に抵触する行為で、慰謝料請求は民法709条「不法行為」に基づく請求として行われます。不倫の相手を既婚者と知って肉体関係を持てば、その2人は共同で配偶者への賠償責任を負うのが一般的です。しかし、慰謝料の額については判例によってさまざまです。事故態様などを類型化したうえでの判断が示されている交通事故の損害賠償請求訴訟とは異なり、不倫に関してはそのような統一したルールがありません。

慰謝料は、精神的苦痛という形のないものを金銭に見積もるだけにその算定は難しく、被害者の精神的苦痛の程度、発覚後の離婚の有無、年齢や婚姻期間、子どもの有無や不貞行為の前後の夫婦関係、浮気の期間などを総合的に加味して決まります。