「今、家を買わなければ」という感覚がないのは100%正解

デフレ慣れした若い世代には「今、家を買わなければ高くなる」という感覚がない。実はこれは100%正しい。少子高齢化で19年以降、日本の世帯数は減少に転じる。このトレンドが続く限り、住宅価格が上がる理由はないからだ。

日本は世界一空き家が多い国で総住宅数に占める空き家の割合は13年に13.5%。33年には空き家率が30%を超えるとの試算もある。東京郊外でも都心から30キロを超えるような新興住宅地に足を運ぶと、怖いぐらいに人が住んでいない。商売にならないのか商店も軒並み閉まっていて、都心へ出るのも電車で1時間20分はかかる。売りに出しても買い手が付かないのだ。そうした寂れたニュータウンが日本中で増えている。

一方で住宅用地の供給は今後さらに緩む。よく言われるのは「2022年問題」。30年間、農林漁業に使うことを義務付けられた生産緑地の営農義務が22年に解除される。つまり、宅地に転用できるようになるのだ。92年に生産緑地に指定された土地は全国で約1万3000ヘクタールあって、東京で3000ヘクタール以上。東京23区だけで東京ドーム100個分近くの生産緑地があって、これがすべて宅地化されれば約25万戸の一戸建てが供給可能だという。これは年間の東京都の新築一戸建て着工件数の倍の数字だ。

都心の容積率緩和も住宅供給にプラスに働く。現状、東京23区の容積率は136%、山手線の内側の容積率は236%。平均2.3階ということだ。山手線内に匹敵するパリの都心部の平均は6階で、これはルイ14世の時代から変わらない。つまりパリ並みの町並みにしようと思えば、山手線内のビルやマンションはまだ倍以上の高さにできるわけだ。便利なエリアに住宅がふんだんに供給されて、空き家が増え続けるのだから、住宅相場に上がり目はない。つまり、基本、待って損はないのだ。

「借金からスタートしたくない」という人生観を持っている若い世代が、賃貸住宅を選択するのもきわめて現実的だ。宝くじかビットコインでも一発当てれば家を買うオプションもありうるのだろうが、悲観的あるいは見通しの悪い将来に対しては家を持つほうがリスクと考えるのは当然。賃貸なら海外勤務を命じられても問題ないし、転職する際も縛られない。子供1人なら手狭でもない。今後は賃貸物件の供給も増えるから、よほどの好立地でなければ高騰の心配もない。

超金持ちが都心3区で坪単価600万円を超える物件を買っているが、そちらもそろそろ限界に近づいている。海外の富裕層の都心マンション漁りも中国から資金の持ち出しが制限されたために2年ほど前のピークから下がり始めている。日本人にとっては、ライフプランを前提に考えると持ち家よりも借りるという選択肢のほうが賢明。そう、戦後一貫して続いてきた日本人の住宅観は根本から変わってしまったのだ。

(構成=小川 剛 写真=時事通信フォト)
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