「借金したくない」から持ち家願望がない40歳代以下

ここにきて90年代前半に組まれた住宅ローンのサイクルが一巡して、ゆとりローンを払い終わった引退世代が出てきた。今の50代後半から60代はしんどい思いをして返済してきたトラウマがあって、それが消費不足の一因でもある。

その下の世代、40~50代になると昇給がないことにも20年来の大デフレにも慣れた一方、少子化の一番先頭を走っている世代で子供1人という人が多い。夫婦に子供1人なら極端なことを言えば2LDKで十分なわけで、戸建て住宅へのこだわりもない。

さらに40歳前後から下の若い世代ともなると、「家を持ちたい」という欲望のほうが少ない。「金利が低い今が買い時」と言われても、「もっと下がるんじゃないか」と何となく感じているし、そもそも家を買って借金を抱えることは大きなリスクだと思っている。我々世代にはまったくなかった発想で、「負けから入りたくない」と彼らは言うのだ。

我々にとって結婚して「狭いながらも楽しいわが家」を持つことは目標だったし、女性を口説くうえで車は必需品だった。5%の金利なんて給料が上がればいずれ返せると思っていた。だが、今どきの若い人は「いつ足元が崩れるかもしれないのに、そんな借金をするなんて人生負けから入るようなものだ」と思っている。極端な話、結婚して家庭を持つことだって「負け」の部類だ。

こうして俯瞰すれば、どの世代からも家を建てようという積極的なマインドは出てこない。だから金利1%を切るフラット35も借りる人がいない。空前の住宅ブームになるはずだったのにならないのである。つまり、住宅政策はもはや経済の起爆剤にはなりえないということだ。

そもそも住宅政策は景気対策でやるべきものではない。もっと安く家を供給できるようにするのが本当の住宅政策だろう。日本の住宅の建築コストは欧米に比べて高い。狭い住宅事情や工法の多様さ(アメリカやカナダの戸建て住宅はほとんどがツーバイフォー工法で建てられる。工法が標準化されれば建築資材を共通化しやすいので価格が下がる)など建築費が高くなる理由はいくつかあるが、私が一番の障壁だと思うのは住宅に使われる部品や部材の供給元が限定されていることだ。

ガラスもアルミサッシも石膏ボードもトイレもタイルもほとんどが独占、もしくは寡占状態になっている。海外から安い部材を取り寄せても、日本の住宅には使えない。業者とつるんだ行政当局が厳しい建築基準や規制を盾に認可しないからだ。水道関係ならJWWA(日本水道協会)などの認可を得ていないと水さえ流してくれない。世界中の材料が使えるようになれば、建築費は半分になる。そうなれば住宅ブームも起きそうなものだが、住宅資材は輸入規制がかけられているし、仮に海外の住宅資材が入ってきても、流通業者が取り扱わない、などの非関税障壁にガードされて建築コストが簡単には下がらない仕組みになっている。