累損が資本金の20倍以上で倒産の危機

この深孔加工技術を使って、現在、福島第1原子力発電所における燃料デブリ取り出し事業の委託研究を行っている。燃料デブリの多くはセラミックス系の硬い物質なので、芝技研の技術力を活かして穴を開け、デブリのサンプルを取り出すことができれば、廃炉に向けて大きな前進となる。そのための工具や加工条件・方法を国の研究機関と共同で研究している。

「硬脆性材料」の加工で圧倒的な技術力を持つ芝技研。写真は工場風景。

また、口径30mという次世代の超大型天体望遠鏡の開発にも参加している。これは「TMT(Thirty Meter Telescope=30m望遠鏡)」と呼ばれるプロジェクトで、アメリカ、カナダ、中国、インド、日本の5カ国共同で米ハワイ島マウナケア山頂での建設が進められている。総工費は1500億円。このうち芝技研は492枚のガラス鏡の形状加工を請け負っている。

このような世界最先端の技術を持っているのは、加工機械の70%を自社で開発・改良していることが大きい。独自の専用機で加工しているので、他社はまねすることができない。

そもそも、同社は加工装置そのものの開発販売を手がけてきた。もともとメーカーだったのだ。福島は品質にこだわり、設計段階から自社でテスト加工を繰り返し、顧客が納得するまで改良して納入していた。手間とコストはかかるが、顧客から信頼を得た。

ところが、顧客は芝技研に開発させた加工機の導入コストを下げるために、2号機以降は他のメーカーに安く同じものを作らせてしまう。顧客に怒っても仕方がない。開発費が回収できないまま次第に負債がかさみ、1995年には累損が資本金の20倍以上にもなって倒産寸前に陥った。

実は福島には過去、会社を倒産させた古傷がある。福島は「会社を2度倒産させるわけにはいかない。絶対あきらめない。命さえあればなんとかなると思っていました」と語る。

福島は1941年、兵庫県に生まれた。都立芝商業高校から中央大学商学部に進学。64年に卒業し、新卒で工作機械の輸入商社に就職した。いまは技術の会社を経営しているが、本人は技術畑の出身ではない。

福島は営業として全国を売り歩いたが、次第にもっと大きな舞台で自分の力を試してみたくなり、69年に先輩社員と一緒に独立し、「一正機工」という金属加工機械販売の会社を設立した。先輩を社長に据えて、共同経営の形を取った。