高学歴にはグレーゾーンの発達障害が多い?
虎ノ門という場所柄もあり、来院者は極めて高学歴、かつ有名企業や官公庁に勤める人も多い。受診条件は「以前に発達障害の診断を受けていないこと」であるため、発達障害でも極めて軽微ないわゆる「グレーゾーン」である人がほとんどだ。
そういった人は発達障害が軽微でも高学歴なために周囲から期待され「東京大学を出るほど秀才なのに、こんな簡単なこともできないのか」と高いハードルを設けられてしまう場合も。発達障害の特徴である「こだわりの強さ」や「好きなことは極端に集中する」側面を活かして優秀な学業を修めてきたが、就職や管理職への昇進などのタイミングで不得手な分野が浮き彫りになる例がある。ある優秀な経理マンは昇進で管理職になった瞬間、うまくいかなくなったという。部下から上層部にクレームが入り、心を病んだケースも。
「もっとも受診者の多くは、発達障害の特徴を知れば、論理的に自己分析をして真面目にプログラムに取り組みますよ。プログラムを経て復職していく人々は約9割ほどです」(五十嵐氏)
▼ASDとADHD、得意・不得意分野
ASD:自閉スペクトラム症
得意な仕事例
・規則性、計画性、深い専門性が求められる設計士や研究者
・緻密で集中力を要するSEやプログラミング
・膨大なデータを扱う財務や経理、法務
不得意な仕事例
・顧客ごとの個別対応や、計画が随時変更していく作業
・対話中心の仕事や、上司からのあいまいな指示
ADHD:注意欠如・多動性障害
得意な仕事例
・自主的に動き回る営業職
・ひらめきや企画力、行動力が求められる企画開発、デザイナー、経営者、アーティスト
不得意な仕事例
・緻密なデータや細かいスケジュールなどの管理
・長期的な計画を立て、じっくり進める仕事
・行動力より忍耐力が必要とされる作業
発達「障害」ではなく、発達の「ずれ」
発達障害は、先天的な脳の機能障害である。遺伝的、環境的な要因などが複雑に絡み合っていると考えられているが、実はその全貌は明らかになっていない。かつては愛情の薄い「冷蔵庫マザー」に育てられた子が自閉症になると考えられていたが、いまは親のしつけは原因と関係ないとされている。
信州大学病院診療教授の本田秀夫氏は「『障害』という言葉で誤解を招いている側面もある」と説明する。
「Neurodevelopmental Disorders。これが現在の発達障害の英語表記です。つまり直訳すると『神経発達のずれ』。これまで人間は誰もが定型の曲線を描いて発達していくと考えられてきたのが、どうやら人それぞれ発達のスピードは異なり、かつ能力のすべてがパラレルに成長していくわけでもないということがわかってきたんです。発達障害は、決して発達しないわけではなく、発達の仕方が独特で定型発達の秩序からは外れているということです」
「Disorder」という言葉が精神医学で初めて使われたとき、専門家たちはどう日本語訳するか悩んだという。いま、日本の医学界では「神経発達症」と呼ぶよう提唱している。「障害」ではなく「症」であることが重要で、たとえば『自閉スペクトラム障害』ではなく、『自閉スペクトラム症』が学界の推奨する呼び方だ。
ではなぜ世間で「発達障害」の呼び名が一般的なのか。1つには社会概念としてすでに定着しており「発達障害者支援法」や「発達障害者支援センター」など行政用語として使われていること、また実際にその特性が原因で著しく日常生活に支障をきたす場合、障害として認定されることで、障害者雇用枠で採用されるなどの実態もあるからだ。