お客によって変わる「満足の中身」
たとえば既製品のスーツを競輪選手が着ると、ウエストに合わせたら太ももが入らないことがある。オーダーメイド自転車も同じで、乗る人に合わせて調整する。「若者と中高年では体形も筋肉も違う」と語る松田氏は、かつて高齢者向きに「足をまたぐ部分が低い自転車」を開発。身体機能が衰えてもまたげるように最低地上高を18センチにした。また、片膝を痛めている人には、動かせるほうの足で漕(こ)げるようにペダルが付いているクランクの長さを調整した。これなら痛めた片足に負担をかけずに漕ぐことができる。
ビジネスパーソン向けには、仕事用バッグを入れる自転車を製作した。前カゴではなく、フレームの上部分の間にカバンをはさむデザインだ。“ツーキニスト”(自転車通勤する会社員)が出現する以前、1996年にベルギーで開催された自転車のデザインコンテストに出品した作品である。「LEVEL」が行うのは、顔の見える相手に向けた“オンリーワン”だ。
「オーダーメイドの自転車が売るのは『満足感』で、これはお客さんによって異なります。競輪選手における自転車は商売道具なので、『勝つこと』や『成績が上がること』が満足感をもたらす。一方、一般の自転車愛好家は『快適に乗れること』でしょうし、高齢者や障害者は『若者や健常者に近い行動が取れる』ことです。それぞれ異なる相手の満足感をめざして製作しています」(松田氏)
大幅に減った「町の自転車店」
昔に比べて、さまざまな業界で「地域の個人店」が減っている。自転車店も例外ではない。「経済センサス」(経済産業省)の2014年における自転車店(自転車小売業)の数は1万1497店。前身となる「事業所・企業統計調査」(総務省統計局)では1981年に3万8444店、96年には2万791店、99年には1万5500店だったので、右肩下がりで減る業界だ。主な理由は、後継者不足と大型量販店の進出といわれる。
業界団体の役員も務める松田氏は「従来のやり方で『町の自転車店』が生き残るのは厳しい。小さな店で新しい自転車を買う人も減っています。新車が売れなければ修理にも来ない。大型ショッピングセンターの一角に店を構える“軒先営業”も増えてきた」と語る。