さまざまな業界で、「地域の個人店」が減っている。自転車店も例外ではない。町の自転車店は、右肩下がりで減少している。苦境の中で生き残る術はどこにあるのだろうか? 自転車好きの間では「レベル」のブランド名で知られる、「マツダ自転車工場」が持つ強みから考える――。
「LEVEL」ブランドには、さまざまな車種が揃う(編集部撮影)

「3つの顔」を持つ自転車店

年齢や世代を問わず、日常生活の足代わりに利用する「自転車」――。だが、この業界も厳しいビジネス環境に直面する。今回は業界で知られた自転車店の事例から考えたい。

昭和時代の風情が残る東京の下町・荒川区。京成電鉄・新三河島駅を出て数分歩くと、小ぎれいなビルの自転車店がある。「マツダ自転車工場」という社名よりも、自転車好きには「LEVEL(レベル)」のブランド名で知られた会社だ。ちなみに自動車メーカーのマツダとは一切関係がなく、社名は創業者の名字から来ている。

創業は1951年。当時は一般向けの実用自転車メーカーだったが、現在は次の3つの顔を持つ。特に最初の2つを「LEVEL」ブランドで展開して高い支持を集める。

(1)プロ競輪選手向けの「フレーム」づくり
(2)自転車愛好家向けの「オーダーメイド自転車」
(3)「町の自転車店」としての役割

卓越した技術と3つの顔があったから、後述するビジネス環境の変化にも生き残り、存在感を発揮できるのだ。それぞれの横顔を紹介しよう。

競輪選手向けは「現代の名工」が手がける

自転車レースの順位を競い、成績が収入に直結するプロの競輪選手。この選手たちと向き合うのが2代目の松田志行氏(社長)だ。荒川区で生まれて父親の家業を継いだ。若い頃は自転車好きではなかったが研鑽を積み、03年には、都内の優秀な技術者に贈られる都知事賞「東京マイスター」(「名工」)にも選ばれている。

顧客には日本トップクラスの選手が多く、約130人が「LEVEL」を選んでいる。競輪選手には、本体フレームだけを製作して供給する。実は競輪用自転車は、公益財団法人JKA(旧日本自転車振興会)が定める「登録自転車」と「認定部品」に分かれている。高水準の強度と精度が要求されるフレームは、登録自転車だ。JKAの登録自転車メーカー約30社しか製作できない。フレーム以外のパーツは認定部品の中から選び、各選手が競輪用自転車を組み立てる。