20万~30万円で仕上げるフレームは、使用する選手の体格や要望などに合わせて設計する。この設計はCAD(コンピュータによる設計システム)で行う。今では広く使われているCADだが、同社では35年前の1983年から導入していた。こうしたフレーム作りの達人を、自転車業界では「フレームビルダー」と呼び、松田氏はその代表的存在だ。
「長年、競輪選手と付き合って感じるのは、選手は自転車を走らせるプロですが、自転車の構造自体はくわしく知りません。しかも理論よりも感覚で伝えてきます。A選手とB選手が『もう少し流れるように作ってほしい』と同じことを言っても、真意が違う場合もあるのです。まずは徹底して話し合うことから始めます」(松田氏)
初めての選手も、長年依頼する選手でも対話が欠かせない。綿密な作業なので、「1台目では完璧にならず、2台目で微調整して、3台目でちょうどよくなるような感覚です」(同)
“走りのプロ”相手に精度と強度を高めたフレーム作りは、社内でも松田氏だけが担う。微差の依頼に対応して毎月コンスタントに10台前後、年間に100台ほど仕上げる。
“安い自転車”は乗り心地が悪い
2つ目の業務は、「オーダーメイド自転車」の製作だ。こちらはお客の希望に徹底して応える「フルオーダー」と、汎用性の高い部品を利用した「セミオーダー」がある。完全仕立てか、半仕立てか。オーダーメイドスーツの“自転車版”といったイメージだ。
フルオーダーでは、自転車で何十キロも走る愛好家が顧客だ。個人の好みに応じて製作するので、価格は15万円のものもあれば30万円以上になることもある。セミオーダーはもっと安くなり、顧客には、ヒザが痛いなど身体に不調を持つ人、身体能力が衰えた高齢者もいる。担当は松田氏の作業を見て育った、息子の裕道氏(同社専務で3代目)など他の熟練職人だ。こちらも生産台数は年間約100台だという。
「量販店では1万円程度の自転車も売られています。自宅近くのスーパーやコンビニに買い物に行く程度なら、低価格の自転車で十分でしょう。ただし乗り心地がよくないので、長い距離を快適に走るのには向きません。“ママチャリ”しか乗ったことのない人に、本当の自転車の乗り心地を伝えるのも『LEVEL』の役割です」(松田氏)