弱点を探し出せばコンピューターに勝てる

11月に行われたコンピューターのチャンピオンを決める「将棋電王トーナメント」の対局で、猛威を振るったのが<横歩取り>という戦法だ。

「私が見た限りでは7割くらいが横歩取りでした。横歩取りは変化の激しい戦法ですが、この手を指したら相手はこうするから次はこう指す……と決まってくる。そこで相手コンピューターの癖を読み切り、終盤で逆転の好手を狙う<まふ定跡>と呼ばれるプログラムが搭載されたのです。それで今回は強豪ソフトがずいぶん討ち取られました」

「JT将棋日本シリーズ/テーブルマークこども大会」は、将棋こども大会で最も規模の大きく、全国11地区の開催。最終戦となった11月19日の東京大会では、低学年部門と高学年部門の2部門に参加者数3596人(前年比138%)の子どもたちが集まり、熱戦を繰り広げた。

ということは、人工知能の弱点を探せば、人間も勝てるということでもある。

「プログラムを変えない限りは、コンピューターはこの局面ではこれが正しいと判断して一つの手を選びやすい。だから強いのですが、穴にもはまりやすい。全幅探索と呼ばれるようにコンピューターは一手ずつローラー式に読んでいく方法があるのですが、例えば20手先まで読むソフトなら、21手で打ち取る形に持ち込めば理論上は勝てるはずです。

ただ、あくまでコンピューターの弱点を突くという指し方なので、それが果たして将棋として正しいのかどうか。この1、2年なら、半年かけてコンピューターの弱点を探し出せば、おそらく棋士なら勝てる可能性はあります。しかし、そうしてまで1局勝つことにどれだけの価値があるのかは疑問です。半年間、自分の勉強はできませんから将棋のスタイルは乱れてしまいますし、対戦した後もその後遺症が長く続くことも考えられます。生活がかかっているプロには怖くてなかなかそこまでできません」

人工知能がディープラーニングでより深く学んでいったら、やがてはめ手にも対抗できるのだろうか。

「はめ手に引っかかることは減るでしょうね。ただ、将棋の可能性が100だとしたら、コンピューター将棋でもまだ10くらいしか到達できてない状態です。100に到達しない限り、隙や癖はあるはずです」

高学年部門の決勝戦は塩谷大暉君(八王子市立秋葉台小学校5年)対小雀悟君(横浜市立本牧小学校5年)。109手にて塩谷君の勝ち。低学年部門の決勝戦は北原優君(船橋市立前原小学校3年)対三好剛瑠君(川口市立戸塚東小学校3年)。74手にて北原君の勝ち。

将棋の場合は、初手から最終局面までの手順数(探索空間)は10の220乗程度と言われている。宇宙にある原子の数が10の80乗個と言われているから、それを大幅に超えるとてつもない数字だ。

この無限に近い可能性のなかから、棋士は3つのプロセスで考えるという。まず「直観」で大まかな判断をして手を絞り、次に絞り込んだ手を「読む」。そして読みの検討からあえて離れ、全体の流れを見る「大局観」だ。

「人間の場合は、将棋の手の読みにストーリー性を持たせて、自分の理想に向かって進むのですが、コンピューターは局面局面で判断するので、そういうところがないのです。そのぶん局面の判断能力はとても優れているわけです。これからだんだん直感や大局観も優れてくるのでしょうね」