仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのはレイ・カーツワイル著、高橋則明訳『シンギュラリティはより近く』(NHK出版)――。
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イントロダクション

AIをはじめとするテクノロジーの進化が語られる際に「シンギュラリティ」が言及されることが多い。未来学者レイ・カーツワイル氏が約20年前の著書で2045年頃に訪れると予測した、人間が生物学的限界を超える、これまでのルールが適用できない世界への転換点を指す言葉だ。

その到来がいよいよ現実味を帯びている。

本書では、2005年刊行の『シンギュラリティは近い』(NHK出版、紙版書籍邦題は『ポスト・ヒューマン誕生』)の著者が、シンギュラリティ到来の兆しともいえる技術進歩の現状と可能性を、汎用人工知能(AGI)、脳とAIの融合、ナノロボットの活用、寿命延長技術などのテーマで、最新の研究成果や理論を踏まえて論じている。

著者の考えるシンギュラリティの中核にあるのは、ナノスケールのデバイスを使って脳とAIをつなぎ、人間の知能を指数関数的に拡張することだという。

著者はAI研究開発の世界的権威。Googleで機械学習と自然言語処理の研究を率い、現在は同社の主任研究員兼AIビジョナリー。MIT在学中に起業して以来、音楽シンセサイザー「Kurzweil K250」など数々の発明品を世に送り出してきた。

1.人類は六つのステージのどこにいるのか?
2.知能をつくり直す
3.私は誰?
4.生活は指数関数的に向上する
5.仕事の未来:良くなるか悪くなるか?
6.今後30年の健康と幸福
7.危険
8.カサンドラとの対話

今はシンギュラリティに向けた「変化のピーク」

「シンギュラリティ(特異点)」は、数学と物理学で使われる言葉で、他と同じようなルールが適用できなくなる点を意味する。私がシンギュラリティの隠喩を使ったのは、現在の人間の知能ではこの急激な変化を理解できないことを示すためだ。だが、変化が進むにつれ人間の認知能力は増強されるので、対応できるようになる。

前著の『シンギュラリティは近い』のなかで私は、長期トレンドからシンギュラリティは2045年頃に起こると予測した。当時の日常生活とかけ離れたこの予測は、楽観的すぎるとの批判も受けた。だが、それから注目すべきことが起きている。進歩は加速しつづけたのだ。アルゴリズムに関するイノベーションとビッグデータの登場により、AIは専門家の予想すら超える速さで驚くべきブレイクスルーをなし遂げた。

これまでシンギュラリティは約20年前に私が予想したとおりに進んでいる。『シンギュラリティは近い』の序文で、私たちは「この変化の初期ステージにいる」と書いたが、今は変化のピークにさしかかっている。

これからの10年で人々は、まるで人間のように思えるAIとかかわるようになり、今のスマートフォンが日常生活に与えるのと同じくらいの影響を単純なブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI=脳とコンピュータを接続すること)が与えることになるだろう。