極小の「ナノロボット」を血流を通じて脳に入れる

最終的にBCIは、ナノスケールの電極を、血流を通じて脳に入れるなどの非侵襲的な方法が基本となるだろう。人間の脳をシミュレートするのに実用的なインターフェースは数百万から数千万の同時接続があればいいと見積もっている。

2030年代のどこかで、私たちは「ナノロボット」と呼ばれる極小の装置を使って、この目標を達成するだろう。この小さな電子装置は、私たちの大脳新皮質の上の層とクラウドコンピュータとを接続させることで、私たちのニューロンとオンライン上にあるシミュレートされたニューロンとを直接に結ぶ。

バーチャルの脳は無制限に拡張することができる。(計算論的には)層を積みあげて、それまで以上に洗練された認知能力を得ることができるのだ。

私たちの脳は頭蓋骨という筐体から解放され、回路基板によって生物学的組織よりも数百万倍も速く情報を処理できるようになるので、知能は指数関数的に成長し、今の数百万倍にまで拡張する。これが私の定義するシンギュラリティの中核なのだ。

脳の3Dイラスト
写真=iStock.com/CoreDesignKEY
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脳のデジタルコピーにより「あなた2号」が誕生する

AIが独立した多くのアルゴリズムで構成されているように、人間の脳も別個の意志決定ユニットを複数もつことを示唆する医学的証拠は増えている。私の師であるマーヴィン・ミンスキーは先見の明にすぐれていて、脳はひとつのまとまった意志決定機械ではなく、神経組織の複雑なネットワークであり、決断しようと思うときに各部分が異なる選択肢を推薦しているかもしれないと考えていた。

ここから刺激的なひとつの問いが出てくる。もしも意識とアイデンティティが、頭蓋骨の中にある多くの明確な情報処理構造に広がっている(たとえ物理的に接続されていない構造でも)のならば、それらの構造が頭蓋骨の中と外に離れているときには、どうなるのだろうか?

先進テクノロジーを利用して、あなたの脳のある部分を調べて、その小さな部分の正確なデジタルコピーをつくるとしよう。それに追加して、あなたの脳の別の部分をコピーしてみる。さらに別の部分のコピーと続けていく。このプロセスの最後には、あなたの脳全部をコンピュータで表した完全な複製ができる。それはあなたの脳とまったく同じ情報をもち、同じように機能する。

ではこの「あなた2号」は意識をもつのだろうか? あなた2号はあなたとまったく同じ経験をもっているし(あなたの記憶を共有しているから)、あなたと同じようにふるまう。意識をもった存在の電子的なバージョンを完全に禁止しないかぎり、答えはイエスになる。