「あなた2号」は「あなた」なのか?

では、あなた2号はあなたなのか? 実験が成功すると、あなた2号は単独で行動できるので、それは「あなた」から離れて異なる方向に進み、みずからの記憶をつくり、異なる経験に反応する。だから、あなたのアイデンティティが、あなたの脳内における特定の情報の配列にあるかぎり、あなた2号がたとえ意識をもったとしても、それはあなたではないのだ。

では次の思考実験に入ろう。あなたの脳を一区画ずつデジタルのコピーに置きかえていく。残っている脳とデジタルコピーは、BCIで接続する。そこにいるのは、あなたとあなた2号ではなく、あなただけだ。そのように置きかえられた新しいあなたはまだあなたなのか?

光るポータルの前に立つ女性
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このシナリオでは、あなたの主観的意識が維持されると信ずる強い理由がある。実際のところ、現在きわめて限られた方法ながら、一定条件の脳でこれを実行している。2000年代以降、科学者は、脳に構造的な損傷や機能不全がある人を助けるための脳の人工装具を開発してきた。たとえば、現在では記憶力に問題がある患者の脳に入れて、一定程度海馬の役割をする装具がある。

脳は驚くべき適応力をもっている。ハイブリッドになったあなたの脳は、あなたを定義する情報のパターンをまったく変えることなく維持する。

故人をリアルに再現する「レプリカント」がつくれる

私たちはすでにデジタルの活動を通して、自分がどのように考え、何を感じているか膨大な記録をつくっている。そして、これからの10年で情報を記録し、保存し、整理するテクノロジーは急速に進歩するだろう。2020年代が終わりに近づくときに、このデータを利用して、具体的なパーソナリティをもつ人間をリアルに再現する非生物的シミュレーションをつくれるようになるはずだ。

2023年時点でもAIは人間をまねることがどんどんうまくなっている。AIはすでに特定の個人の文章をまね、声を再現し、動画の中にその人の顔を移植することもできる。

私たちがつくることのできるAIアバターのひとつのタイプは、〈レプリカント〉と呼ぶもので、見た目、言動、記憶、スキルは故人のもので、私が「アフターライフ」と呼ぶ状況下で生きている。

2020年代の終わりには先進AIが、生きているようなレプリカントを生成できるようになるだろう。ソースとするのは、故人に関する数千枚の写真や数百時間の動画、数百万語に及ぶテキストチャットの単語、興味や習慣などのくわしいデータ、故人を覚えている人々へのインタビューだ。