こうしたところに見え隠れする企業の本音は被害者から見抜かれてしまう。それは「自分たちがこうしたら、被害者はどう思うか?」という洞察力が欠けているからであり、洞察力が欠けるのは加被害混合案件だからである。
最近は芸能人も加被害混合案件で失敗するケースが目立つ。市川海老蔵さんは確かに殴られた被害者ではあるが、歌舞伎界の人々やファンは明らかに迷惑を被った。麻木久仁子さんは男に騙された被害者かもしれないが、大桃美代子さんに対しては加害者である。
加被害混合案件は危機管理でしばしば失敗の原因になっている。それを防ぐには人間と人間社会の心理をしっかり考えることである。
ビジネスマンなら大なり小なり「加害者であり、被害者」という立場に置かれることがあるだろう。そんなときに適切な対応をとれるようにするには、普段から訓練を積んでおくことが大事である。それにはフーズ・フォーラスやソニーのような事件が起きたとき、「自分だったらどんなメッセージを発するか」を考え疑似体験をしておくとよい。
フーズ・フォーラスの勘坂康弘社長は記者会見で何と言うべきだったか。
「このような大変大きな被害を出した私には飲食店を経営する資格はありません。即座に辞任いたします。会社は、私が決めることではありませんが、3カ月なり6カ月なり営業停止して、もう一度衛生管理や作業マニュアル、仕事に対する考え方といったものをゼロから再構築して出直してもらいたいと思います」
これが正しいコメントである。しかし、フーズ・フォーラスの社長からこうした話はまったくないどころか、小学校の学芸会のような真似を繰り返すばかりだった。心に届く謝罪の言葉、的確な原因分析、厳しい処分、確実な再発防止策がないまま土下座をしたところで何の意味もない。その結果、勘坂社長はテレビを見ていた視聴者を怒らせ、社会悪に位置づけられてしまった。社会悪には必ず司直が捜査に来る。実際、この事件に対しては4都県の合同捜査本部が設置された。