事実、過去20年間以上にわたってパートタイマーの年収は、上述した水準のままほぼ全く変化していない。しかし同じ20年間でパートタイム労働者の時給は約20%上昇している。そしてミラーイメージのように、一人当たりの「労働時間」は、時給の上昇を相殺する形で減少を続けてきた。
このようにしてパートタイム労働者の「人数」を増やすことも、「一人当たりの労働時間」を伸ばすこともままならなくなった日本企業は遂に、消極的ながら正規雇用を増やし始めたのである。そして正規社員の有効求人倍率はじわじわと上昇を続け、遂に2017年6月に1倍を上回った。
「しわ寄せ」に喘ぐミドル男性の悲哀
これでようやく正社員も含めて賃金が上昇に転じる素地が整ったかと言えば、現実はそう単純ではない。確かに、有効求人倍率が調査の対象としている「現在職探しをしている」学生や失業者の待遇は、過去よりも改善しているであろうことは疑いの余地は少ない。また、非正規から正規雇用へ職制が変更された労働者の多くが、処遇の改善を受けているとみられる。
しかし労働者の給与改善は、企業側からみれば収益圧迫要因でもある。このコスト増加を相殺するために企業が何を考えるか。それは残念ながら、従来以上の「昇給速度の鈍化」と「働き方改革の美名を借りて行われる残業代削減」だ。この目論見が実現すれば、新規に正規社員となる層(新卒や非正規雇用からの正規化層)における所得の上昇とセットで、既存の正規社員の給与総額の抑制が当面続く可能性も高いということになる。
そしてこのような企業行動は、何ら目新しいものではない。例えば図表1は日本の労働者の年収カーブを生まれ年別に確認したものであるが、「初任給が引き上げられる」一方で、「40代~50代の給与は押し下げられる」ことに伴う年収カーブのフラット化傾向が続いていることが確認できる。
図表2は、年収カーブのフラット化を別の切り口から捉えたものだ。とりわけ2000年代後半から顕著な動きとなっているが、40代労働者のうち「部長」「課長」の割合の低下が続いている。50代労働者でも同様の傾向が確認できる。すなわち、企業は40代・50代雇用者の昇進を遅らせる、昇進できる人数を減らす、といった取り組みを行っている可能性がある。
なお、40代には団塊ジュニア世代が、50代にはバブル入社世代が含まれるため、人件費全体に占める割合も大きい。企業は、ボリュームゾーンを形成する雇用者の昇進を遅らせることで、人件費の削減を図っていると言えそうだ。そして同様の現象が今後も発生する蓋然性は無視できないだろう。