妻は自分の所得が増えると子供を欲しがらなくなる
2)Butz‐Wardモデル
夫の所得の増加は、子供の数に対する需要を増加させるが(所得効果)、妻の所得の増加は子供の数に対する需要を減少させる(代替効果)。同じように所得が増加するにもかかわらず、夫と妻とでは出生率(子供を作る意欲)に関しては逆方向に働くという理論です。パートやアルバイトではなく、フルタイムで働くワーキングマザーの場合、家事・育児の負担がより大きくなるため、出産を女性が控えるのかもしれません。
3)相対所得仮説
これは、以前、本欄でご紹介した、「イースタリンパラドックス」(国全体が豊かになっていっても、(国民の)幸福度は変わらない)を唱えたアメリカの経済学者リチャード・イースタリンが考えた説です。
親世代の生活水準、つまり自分たちが子供時代に経験してきた生活水準と自分たちが子供を作ったときの生活水準の比較(世代間相対所得)によって、今までと同等以上の生活水準を維持できるなら子供を作るけれど、維持できない場合には子供を作ることをためらうとする内容です。親世代と自分たち夫婦の間の相対所得が子供の数に影響を及ぼすという理論です。
▼母親が高学歴であるほど子供ひとり当たり養育費が高くなる
日本人の研究者にも注目すべき仮説を打ち立てた人がいます。中央大学経済学部の松浦司准教授です。松浦教授はいわゆる人が属する「準拠集団内」(同一の地域、同一の学歴、同一の年齢など)の平均世帯収入と自分の世帯収入の差を「相対所得」と定義し、以下の分析結果を発表しています。
1. 母親が高学歴であるほど子供ひとり当たり養育費が高くなる
2. 母親が高学歴であるほど子供数は少なくなる。
3. 相対的低収入層では本人世帯収入が平均世帯収入に近づくと出生確率が上昇する
4. 「相対所得」が高い(自分のほうが平均より世帯収入が高い)と養育費が高くなり、その結果、出生確率が低下する
1と2は、要するに母親の学歴と子供の数がトレードオフの関係にあるということです。