専業主婦でなければ実現できないライフスタイル

とはいえ、こうした手づくり中心の生活は、やはり時間的な余裕を必要とする。朝晩それぞれ1時間を通勤に費やし、8時間労働をしていては、とてもそんなことをする余裕はない。専業主婦というステータスを得て初めて実現できるライフスタイルであることは、明々白々だ。

労働政策研究・研修機構による「第4回(2016)子育て世帯全国調査」に、「この1年を振り返って、あなたは幸せでしたか」という質問に対して、「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点として、母親にその評価点を尋ねるという項目がある。同研究所では、8点以上を「高幸福度」層として、その分布を見ている。

ふたり親世帯に限っていえば、「高幸福度」層は、2014年の第3回に続き専業主婦で高い。2014年のデータでは世帯年収650万円以上の所得者層では、専業主婦の75.7%が「高幸福度」層だ。平均してみると、専業主婦では「高幸福度」層が63.0%、有職主婦の場合は49.4%と大きな差がある。

この傾向は、前出の「少子高齢社会等調査検討事業(若者の意識調査編)」のものとも連動している。先にも見たが、世帯年収が400万未満で専業主婦になりたい人はおよそ30%だが、400万~600万で43.9%、600万~800万では37.5%、800万~1000万だと48.1%が専業主婦を志向するのだから。

「縁遠い暮らし」をメディアがあおる

専業主婦になって幸せと感じる年収のボーダーにある400万~600万円というのは、どんな金額なのだろう。「平成28年 国民生活基礎調査」の概況の「各種世帯の所得等の状況」によると、日本人の平均所得金額は545万8000円と、600万には及ばない。世帯年収が600万を超える世帯は全体の3分の1、34.3%にとどまる。世帯年収は家族の収入の合算だから、夫が単身で稼ぐ専業主婦世帯の割合はさらに低いことになる。専業主婦は勝ち組だといわれるゆえんだろう。

一方で、世帯年収が「200万~300万円未満」は13.7%、「100万~200万円未満」が13.7%、「300万~400万円未満」が13.2%。世帯収入が100万以上400万未満の家庭が4割を超えるのが実際のところだ。

こうしてみると、専業主婦はごく少数しかいない。そんな人たちの生活を前提とした「手づくり礼賛」とそれにまつわる「丁寧な暮らし」は、多くの生活者には縁遠いのが現実だ。そんな暮らしをメディアがあおることで、それが実現できない自分の現状へのフラストレーションが高まるとはいえないか。

専業主婦と有職主婦で幸福感に差が出るのは、こうした「主婦のあるべき姿」像と自分とのや、本来あるべき主婦業をまっとうしていないという周囲からの批判といったことも遠因ではなかろうか。

佐光紀子(さこう・のりこ)
翻訳家、ナチュラルライフ研究家
1961年東京都生まれ。1984年国際基督教大学卒業。繊維メーカーや証券会社で翻訳や調査に携わったあと、フリーの翻訳者に。とある本の翻訳をきっかけに、重曹や酢などの自然素材を使った家事に目覚め、研究を始める。2002年、『キッチンの材料でおそうじするナチュラル・クリーニング』(ブロンズ新社)を出版。以降、掃除講座や著作活動を展開中。2016年上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士前期課程修了(修士号取得)。
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