「仕事よりもするべきこと」の理想型
つまり、夫は夫で残業で忙しい。その一方で、妻は妻で、家事をして夫の稼ぎを支えるのが自分の役割だ、と思っているという現実が、世界一家事をしない夫を作り出している社会の根底にある。
専業主婦になって「仕事よりもするべきこと」が具体的にどのようなものかという一つの理想型に「丁寧な暮らし」がある。読売新聞が運営する女性向け掲示板「発言小町」への投稿が、女性たちのあこがれるライフスタイルの一端を表している。
丁寧な暮らしをすることに憧れています。
例えば
毎朝、雑巾で隅々まで床を拭くこと
ベランダで栽培したプチトマトを朝食のテーブルに出すこと
こだわった食材を選び、食事を作ること
靴箱の中の靴をじっくりと磨きあげること
押入れなど収納術を駆使して、部屋の中には無駄なものが無い。
子供が帰ってきたらホットケーキを焼いて一緒にティータイム。
いま思いつくままに書いてみました。
どれも憧れます。
http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2012/1012/546919.htm
この投稿に対して、実に208件の書き込みがあった。実際に「丁寧な暮らし」をしている人の声もあれば、そんなものはすぐに飽きるから忘れなさいというアドバイス、私も丁寧な暮らしがしたいという共感の声。寄せられた意見は様々だが、関心の高さをうかがわせる。
キーワードは「季節感」と「手づくり」
こうした「丁寧な暮らし」のアイコンの1人が、NHKのEテレで人気のベニシアさんだろう。京都大原に住むイギリス人ハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさん。ハーブが専門なので、「四季折々にハーブを育て、衣食住のあらゆるシーンに活用。料理やお茶などの食用はもちろん、シャンプーや化粧品、ワックス、洗剤、防虫剤など、ハーブを活用する」(http://www4.nhk.or.jp/venetia/)生活が紹介され、多くの女性のあこがれの的となった。
彼女を代表とする「丁寧な暮らし」のリーダーたちのキーワードは、季節感、そして手づくり。夏にはお手製のレモンバーム入り梅酒を楽しみ、クリスマスには定番のジンジャーブレッドを焼き、お手製のオーナメントを飾り……という暮らし。
一方、「丁寧な暮らし」を前面に出したウェブショップ、キナリノ(https://kinarino.jp/)でも、「めぐる四季を感じながら焼く、日常により添うお菓子」「今日の元気とキレイは自分で選ぶ! 素材を感じる、野菜&フルーツのレシピ集」といった特集が、美しい写真とともに並ぶ。ヘルシーで美しい生活は、生産者が込めて作った四季折々の食材を丁寧に調理することから……というライフスタイル提案だ。
こうした、季節感のある、厳選された素材を使って自ら作った食べ物、たとえば味噌や梅干し、パンといったものを、ゆったり味わい楽しむ生活は、ここまで述べてきたように、テレビや雑誌で「丁寧な暮らし」として取り上げられる。取り上げるというよりは、礼賛されているに近い。