東京に本社を移す気は「全然ない」

――事業の拡大とともに東京に本社を移す企業も多いですが、名古屋から東京に本社を移す予定はありますか。

【小池】まったく考えていません。もともと市内の熱田区に創業家があったから名古屋を本拠地にして、製造を担うブラザー工業の工場も、名古屋市や愛知県内に集まっています。そうした経緯で従業員も中部地区の出身者が多く、地元の大学や高校とのパイプも太い。それらを断ち切って東京に移す必然性はありません。

ブラザー工業の小池利和社長(左)とコメダ珈琲店の臼井興胤社長

東京・京橋に自社ビルの東京支社もあります。必要に応じて出張すればよく、IRなど東京で仕事をしたほうが都合のよい業務は、担当者が常駐すればよい。全売上高の8割以上が海外で、海外出張は中部国際空港も利用できます。多くの社員が名古屋から移り、オフィスの増床から社宅手配まで、多額なコストをかけて本社機能を移す理由はないのです。

【臼井】喫茶業のコメダにとって、喫茶王国と呼ばれる愛知県で毎日来るお客さんに鍛えられた強みもあります。国内各地に出店しても「名古屋発祥の喫茶店」というブランドイメージは高い。わざわざ東京に移す理由はないし、この情報化社会で、名古屋という不利もありません。私は以前、スポーツ用品メーカーのナイキにもいましたが、ナイキの本社はポートランド近くのビバートンという町にある。すごい田舎ですが、あの自然の中からスポーツを楽しむ企業文化が芽生えたと思います。特にBtoC(企業対消費者)企業にとって本拠地は大切でしょうね。

名古屋なら人材も豊富にいる

【小池】先ほどお話ししたように、地元の大学や中部地区出身者が多いブラザーですが、いわゆる“就職競合”として学生が掛け持ちするのは、トヨタ自動車やデンソー、アイシン精機などのトヨタ系企業です。だいたい負けます。優秀な人材を獲得したい一面はありますが、「寄らば大樹」という意識の人を追いかけても仕方がない。人口の多い地域ですから、それ以外の反骨心のある人に入社してもらい、グローバルで戦う人材育成をしています。

【臼井】外食産業で最も国内店舗数が多いのは、3000店近く展開するマクドナルドですが、コメダ珈琲店は中部地区ではマクドナルドよりも店舗数が多い。当地ではそれなりの存在感がありますから、アルバイトを含めて人材も集まります。個人差はありますが、地元育ちの人は名古屋の喫茶文化で育ってきているので、のみこみも早い。全店舗数のうち98%がFC(フランチャイズチェーン)店で、コメダブランドはFC店によって支えられています。本部は、新規のFC店向けの研修を手厚くするなどして人材育成に努めています。

個人的に「本拠地意識」は薄いが……

【臼井】私は父親が転勤族だったので、小学校を6回転校しています。そうなると「今、目の前にあるものが一生続かない」ことを子供心に悟ってしまう。移動することに慣れてしまい、その土地への執着心も薄い。企業としては本拠地を大切にしますが、個人的には逆ですね。現在の東京の自宅は中央区ですが、そろそろ飽きてきました。

【小池】そこは同じですね。私は愛知県一宮市で生まれ育ち、大学は東京で名古屋の会社に入り、26歳から49歳まで米国に駐在していましたが、自宅の場所にもこだわらない。米国滞在中に買った家も、娘が大学に入る時に売ってしまいました。性格が無精なので、庭付きの家に住んで、休日に芝を刈ったり、草むしりに追われたりするのもイヤ。クルマを運転しないので、公共交通機関の便利な場所で、あまり雨にぬれないで駅に行ける場所を選んでいます。実家は一宮市にありますが、将来どうしようかなと考えています。