従業員の「健康管理」も、とくに中小企業で指導が増えていく

八木氏によれば、労基署が扱う法令違反、労働問題は大きく2つに分けられる。

元労働基準監督署・署長●八木直樹氏
厚生労働省に労働基準監督官として28年勤務。3000以上の現場で労務管理、安全衛生管理、派遣労働者の受け入れ、労災補償、労使トラブルの仲裁などに携わる。現在は、特定社会保険労務士として、八木労務監査事務所代表を務める。

「賃金・労働時間といった一般的な労働問題と、怪我や職業病、健康障害といった労働安全衛生法に基づく問題への対応があります。私が労基署に勤めはじめた30年前には、日本の労働問題は製造業や建設業、運送業などの労災や、化学物質による健康被害などが中心でした。しかし、ここ十数年で、派遣切りや名ばかり管理職などの問題が顕在化して、前者のウエートが大きくなっています」

ただし、長時間労働と健康問題は隣り合わせの問題。労基署は労働安全衛生法に関わる問題についても目を光らせている。なかでも、従業員の健康管理について指導が増えていくだろうと八木氏は指摘する。

「たとえば月100時間以上の時間外労働の場合に産業医に面接を受けるなどの処置は、大企業では行っている事業場も多いですが、小さな会社では疎かになっているケースが多い。そのような医師への面接指導制度について事業所にアドバイスするのも、労基署の仕事。健康診断についても、結果を本人に渡して終わりにしている会社が多いのが現実です。労働安全衛生法上は、健康診断で改善すべき所見が見られれば、従業員の働き方を変更するなどの対応をしなければなりません。高血圧と認められれば、深夜残業はやめましょう、など具体的な処置が必要なんです。労基署は、それを怠っている会社への指導も行います」