プロモーションの目玉として、力を入れているのが“花火”。熱海には、昭和27年から続く歴史ある花火大会があるのだ。三方が山に囲まれている湾状の海で打ち上げられる花火は、反響音の効果もあって見る人の体に響き、実際の音以上に迫力がある。30分間と時間は短めだが、ショーアップされて見応え抜群と評価は高い。最も盛り上がる夏場は動員数3万人以上、春や冬にも開催される。
さらに今年からは秋にも開催。年間計18回、毎回、各5000発、最大2尺玉の花火が打ち上げられる。プロモーション用に、ドローン4台が花火の中を飛ぶ公式映像まで作った。ドローンを飛ばした当日はイベントに仕立てたので、メディアの取材も多く入った。本番直前、温泉に入っていた客がドローンの飛行を不審に思い、クレームが入るという事態もあったが、旅館組合メンバーの対応は迅速だった。「ドローン撮影には規制があり、許可申請がいろいろと必要でしたが、熱海市に理解があって話は早く進みました。何より熱海の花火を知らしめたい。宿泊客の方にお食事が終わった頃合いに花火を楽しんでもらい、終わった後は街に出て遊んでもらいたい。それが街の経済効果につながります」(加藤氏)
ゆるキャラ「あつお」は“オジサンの妖精”
実際に筆者も花火会場に行ってみたところ、浴衣姿のカップルや女子グループなど若いお客でにぎわっていた。地道にキャンペーンを続けた効果が着実に表れている。宿泊客の減少で大手以上に打撃を受けやすい中小規模の旅館も、その効果を実感しているところだ。客室数9室の旅館「法悦」の3代目主人徳用たつや氏は「花火大会の当日は早くから予約が埋まります。ここ1~2年で宿泊客の半分以上を20~30代が占めるようになった。夏の期間は学生のグループも目立ちます」と話す。
「あつお」も熱海の盛り上げ役を担っている。あつおとは、旅館組合のメンバーがつくったキャラクターの名前だ。かつて熱海が団体旅行でにぎわっていたことを象徴し、かつ昭和のイメージを脱却する狙いで考え出された。あつおの設定を聞くと、「会社の慰安旅行で芸者を上げてどんちゃん騒ぎをしていたサラリーマンが、熱海を気に入って居付いた挙げ句に妖精になってしまった」という、切ない胸キュンな(?)ストーリー。片手に魔法のスティックを持ち、花とスイーツが好きな乙女なオジサン「あつお」は、キーホルダーやタオルなど、お土産用に各種グッズ化され、店先で並べられている。
こうして旅館組合が仕掛ける花火大会や街おこしの施策の数々によって、熱海は活気を取り戻し、14年ぶりに宿泊数は300万台にまで回復した。危機感がそうさせたと言えばそれまでなのだが、客の誘致や街おこしに奔走しているのは熱海だけではない。熱海で結果が出ているのはなぜなのか? 本当の理由が知りたい。