ゲームや漫画は規制はなし ゲームは常時接続されている
一方、日常の生活についても、大岸家は子供自身に選択権を与えている。自分が決めたスケジュールさえ守れば、空き時間になにをしても自由だ。ゲームや漫画も一切、規制はなし。テレビゲームは常時接続されていて、漫画は500冊以上が本棚に並んでいるというから驚く。
中学受験を目前に控えたときもそのルールは変わらず、むしろ気分転換のために親のほうから「ゲームをやろう」と声をかけることさえあったそうだ。寝る時間が決めてあるから、どのみち、そう長い時間ゲームはできないが、一生懸命頑張っている子供へのちょっとしたご褒美になる。しかも自分で勝ち取ったご褒美だ。
「親子の間に適度な距離感のある先輩後輩のような関係をつくるというのが、わが家の教育ビジョンのひとつです。そのために、普段から『命令しない』『管理・コントロールしない』『怒鳴らない』『自分がされて嫌なことはしない』と決めていたんです。「~しなさい」と強制はしません。なぜそれをしなければならないのかを親子で話し合い、その後は一切介入しません。だから、小学生のときから、朝は一度も起こしたことがなく、どんなに部屋が散らかっていても、パジャマを脱ぎっぱなしでも、そのままにしておきます。気にはなりますが、一度決めたことを遵守しなければ、逆に子供の不信感を招いてしまいますから」
現状、子供たちは朝ひとりで起きるし、布団はきちんとたたんでいる。
子供が話しかけてきたら、仕事の手を止めて耳を傾ける
まさしく先輩のような存在の大岸さんだが、「葛藤経験」も数多いという。特につらかった思い出として振り返るのは、次男が小学生の頃に本にまったく興味を示さなかったときのことだ。「読みなさい」と言いたい気持ちをひたすらこらえて、次男が自ら本を手にするまで待ったという。読めと言えば、命令しないという親としてのポリシーが崩れる。それを一貫することが子供への教えにもなると大岸さんは考えている。管理・コントロールをしないのは、一見、ラクなようにも感じるが、実は相当の忍耐力を要すというわけだ。
もちろん自律と自立が主眼といっても、放任主義とはまったく違う。どんなに仕事が忙しいときでも子供を優先するのが大岸さんのマイルール。子供が話しかけてきたら、仕事の手を止めて耳を傾ける。文化祭準備委員だった次男と一緒に、テントの機材に巻くための布を夜なべして切ったこともあるそうだ。大学生になった今でも家族の会話が途切れないのは、確固たる信頼関係が築かれているからだろう。
そんな大岸さんが目指してきたのは、「いつもニコニコ太陽のような母さん」。イソップ寓話「北風と太陽」ではないけれど、子供自らがやる気を起こすための根源は、その温かさにあるのかもしれない。