チーターの美しさは背骨にある
こうしてテーマは「魂動」に決まった。しかし、具体的なデザインをどうするか? 前田常務は、“原理”を見つけるために、いろいろな生き物を観察した。そこでたまたま見つけたのが「チーター」だったという。注目したのは、“走る姿の美しさ”だ。
形としての美しさ、躍動する筋肉の美しさ……研究の中で最終的にたどり着いたのは、チーターの“背骨”の存在だったという。チーターはどれだけ激しく走っていても、頭としっぽだけはある「スプライン」でつながっており、そこは動かない。実はそれが背骨だと気付いたのだ。それ以来、クルマの骨格やプロポーションを作る時には常に背骨を意識しているのだ、と前田常務は話す。
命あるものの姿をモチーフにして、コモンアーキテクチャーの「固定と変動」で8台のクルマの基本デザインが出来上がっていく。アクセラなら「疾走中のチーターが後ろ脚で大地を蹴って四肢を伸ばして躍動する姿」、デミオなら「疾走中のチーターの四肢が大地を蹴る前に力を凝縮した姿」といった具合だ。チーターはあくまでも一例に過ぎない。根底にあるのは、普遍的な生命の姿というモチーフだ。
クルマづくりは巨大なチームでひとつに向かって進む。だからその方向性を指し示さなければブレる。もちろんそれはデザインだけでできるわけではないが、デザインの果たす役割は大きい。通常、デザインは秘匿性が高いため、開発初期段階では他部署に見せることは少ない。クルマの開発が進んだ段階で、「デザインはこうなる」と見せるケースが多い。しかし前田氏は開発の初期段階からデザインをエンジニアなど同チームの他部署の人たちに積極的に見せていったという。どういうクルマを作るのか、ゴールを共有するためだ。こうすることで、メンバーは明らかに「ノッて」きたという。
チームで目的を共有し続けるため、「魂動」の哲学を共有
しかし巨大なチームで目的を共有し続けるということは簡単なことではないはずだ。前田常務はモチベーションを継続させ続けるための活動も続けている。「魂動」のフィロソフィーを関係者が共有できるよう、デザイン部門が何を考えているのか、これからどういう方向を目指すのかという話を定期的に社内でし続けているという。
その結果として、デザイン側が設計や工場の現場から“あおられる”こともあるというから驚く。例えば、プレスの技術者から「ここの指示はこういう形状で来ているけど、魂動デザインのためにはもっとシャープなほうがいいんじゃない?」と、より難しい作業が必要な形状を提案されたり、塗装のチームから「魂動デザインの微妙な抑揚を形として見せるために新しい塗装法を開発しました」と申し出があったりするというのだ。デザインが部門が出した案に対し「それは難しい」「そんなことをしたら歩留まりが下がる」などと現場が反発する例はよくあるが、こういうケースは極めて珍しいのではないか。
間もなく第7世代が登場する。前田常務によれば、新世代のデザインは現在のデザインより、少し車種ごとの差を付ける方向にシフトするという。ほんの5年前まで、マツダの存在感を表現するためには8車種を束ねて戦わなくてはならなかった。もちろん固定と変動というコモンアーキテクチャーの基本は変わらないだろうが、その束ね方をもう少し緩くしても大丈夫なところまで、第6世代の「魂動デザイン」はマツダブランドを押し上げたと言うことだろう。