「頭のよさの使い方」を知らない
話を戻そう。
神童、片山さつきは、わたしたちを幸せにするどころか、不幸にしかねないような残念な言動をしでかしている。
2016年8月、NHKで放映された「貧困女子高生」には、パソコンが買えない苦悩が描かれていた。これに対して、ネットでこの女子高校生が貧困ではなく生活に余裕があるという趣旨の書き込みがなされた。根拠は何もない。しかし、片山はそれをすっかり真に受けてしまった。こんなツイートをしてしまう。
「追加の情報とご意見多数頂きましたので、週明けにNHKに説明をもとめ、皆さんにフィードバックさせて頂きます!」――いずれも2016年8月20日
政治家は国民の生活を保障し安全を守らなければならない。なのに、片山は1人の国民の生活を非難して貶め安全を脅かそうとした。彼女の言動は不用意、無邪気、無知といったレベルではなく、確信犯に見える。特定の人たちを罵倒、そして差別することで、「ネトウヨ」の支持層を拡大させようとする狙いがあるのかと、勘ぐってしまう。これはいじめの論理であり、政治家として完全にアウトである。
もう1つ。
芸人の河本準一の親族が生活保護を受け取ったことについて、ブログでこう発信する。2012年だった。
かなりのムチャぶりである。一国民をおとしいれようとしていると言われても仕方ない。
最後にもう1つ。
蓮舫参議院議員が国会内でファッション誌の撮影を行ったことについて、国会で「私的な宣伝や営利目的に当たる行為」として、こう批判する。2010年のことだ。
よく似ている。
NHK「貧困女子高生」、生活保護不正受給、国会内撮影。この3つに対する片山の言及に通底するのは、弱者(貧困、年金受給、商店街)の立場から「不正」をただす、「悪」を退治するという発想だ。
しかし、これらはすべて空回りしてしまった。そして、ときに激しく叩かれてしまう。片山にとっての正義は多くの敵を作ってしまった。片山が言わんとしていることは正論ではある。なのに、なぜ、受け入れられないか。ネット情報を鵜呑みにした、弱者と向き合っていないから、である。
こうして「炎上」することで存在感を示してしまう政治家、そんなレッテルか貼られてしまった。神童時代、常にまわりからほめたたえられるような世界とは、真逆だった。
1位、1位、1位、1位という頭がよかった少女が、なぜ、政治生命を失いかねない発言をしてしまうのか。片山にとっては、こうツイートすることが正義だと思っているのだろう。頭のよさの使い方をまったくわかっていない。それは、とても悲しいことだ。
また、個人的に聞いた話だが、国会、議員会館、議員宿舎近辺を走るタクシー運転手からの評判が芳しくない。渋滞で車が動かなくなると怒り出すという。タクシー車内ではスケジュールどおりに進まないと秘書を怒鳴りつけることもめずらしくなかったようだ。
車内での国会議員の暴言といえば、「このハゲぇー」の豊田真由子。「豊田真由子様に向かって、お前のやっていることは違うっていうわけ」「バーカ」などとインパクトあるセリフを吐き、2017年都議会議員選挙の自民党惨敗の一原因を作ってしまった。
豊田は桜蔭高校、東京大学法学部、厚生省、ハーバード大学とエリートコースを邁進してきた。1位を続けてきた人生を送ってきた神童女子であり、片山と通じるものがある。しかし、残念ながら、片山同様、芳しくないレッテルを貼られてしまい、政治生命の危機に瀕している。神童仲間からすれば、2人には名誉挽回してほしいところだろうが、かなり時間がかかりそうだ。いまのところ、社会に役立つことが叶いそうもない。残念な神童である。
教育ジャーナリスト
1960年神奈川県生まれ。教育、社会問題を総合誌などに執筆。『高校紛争 1969-1970』(中公新書)と『反安保法制・反原発運動で出現――シニア左翼とは何か 』(朝日新書)が大きな話題に。ほか『東大合格高校盛衰史』(光文社新書)、『ニッポンの大学』(講談社現代新書)、『早慶MARCH 大学ブランド大激変』(朝日新書)など著書多数。