トンデモ陰謀論が並ぶ

中盤から後半に進むにつれ、「テレビや新聞などのメディア、沖縄の反米軍基地運動に中国の工作員が多数紛れ入れ込んで反日工作に勤しんでいるに違いない」などと、トンデモ陰謀論の筆は増していく。

知的労働を担う既存の大手マスメディアが「外国人に支配されている」ということは、よほど日本人が無能であると言っているに等しい自虐史観ではないだろうか。テレビ出演慣れしているはずの著者が、本気でテレビ局内に「中国人工作員が多数いる」と信じているとは到底思えない。このあたりは陰謀論を好むネット右翼へのリップサービスであろうか。

そもそも論としての「儒教とはなにか」とか、そしてそれが東アジア国家群にいかなる影響を与えたのか、ということについて書くとなると基礎的な史学的知識が要求される。そうした知識なしに1冊書かなければいけないため、後半はひたすら本題と無関係な中国・韓国の「あるある反日与太話」や、根拠不明な「日本人外交官による中国ハニートラップの話」「民主党(当時)批判」、果ては「ウズベキスタンの親日美談」「クロパトキン将軍の豆知識」などが続く。

アメリカの軍人を賛美するくだりには苦笑するしかない。「戦艦ミズーリに特攻攻撃を敢行して戦死した日本の特攻兵の亡骸を丁重に埋葬して勇敢な戦死者に敬意を表した」として中国の蛮行と対比させ、アメリカ軍の道徳の高さ、凛々しさを賛美しているのだ。しかし、非戦闘員の住む街の上空に原子爆弾を投下し、無辜(むこ)の子供や赤子を皆殺しにした広島・長崎での非人道的蛮行については、「ただの1行も」触れられていない。

著者の歴史観からは、自国軍によって行われた広島・長崎での戦争犯罪は無かったことになっているようである。これはアメリカ人であるケント・ギルバート流の何かの皮肉・ジョークの類いなのだろうか。

まるで平行世界の中韓の話

ケント・ギルバートと聞くと、私はどうしても1991年に放送されたフジテレビ『世にも奇妙な物語』での傑作短編「切腹都市」を思い出してしまう。

日本には現在でもサムライや忍者がいて、ハラキリがあると信じ込んでいるアメリカ人商社マン・ロバーツ(ケント・ギルバート)が来日する。ロバーツの想像通り、日本社会の慣行は奇妙奇天烈。重要書類を盗むために忍者に扮(ふん)した間諜が飛び回り、ささいな失敗で部下は切腹を命じられる。