日中両国の関係がぎくしゃくしても、「普通の中国人」は日本での観光やショッピングに夢中。だが、彼らが愛しているのは、お金で買える日本の「モノ」だけではない。

原体験としての80年代日中接近

以前、中国のある反日活動家を取材したことがあります。尖閣諸島に上陸したグループの一員だったのですが、お土産に日本のお茶やお菓子を持っていくと、喜んで受け取るんです。「『日貨排斥』ではないんですか」と聞くと、「いいものはいいと認めざるをえない」(笑)。

彼の本職は、プロのテレビカメラマン。「できるだけ国産品を買うようにしているけれど、カメラだけは日本製でないと。そこは譲れない」。しかも、「日本人は礼儀正しく真面目で、時間も約束も守るし、とても清潔。中国人が見習わなくてはならないことがたくさんある」。尖閣は尖閣、これはこれ、なんです。

日本で「爆買い」している中国人にも話を聞きました。若い人もいれば年配の家族連れもいて、ひとくくりにはしづらいんですが、全体的な印象としては、1980年代に日本に親しみを抱いた経験のある層が多いと感じます。

「普通の中国人」にとって、日本製品はあこがれの存在に(中国・広州にて)。(写真=時事通信フォト)

80年代とは、文化大革命が終わり、失脚していた経済重視派のトウ小平が中国の実権を握って、日中が急速に接近した時代です。このとき欧米を含む外来の文化が中国国内で解禁されたんですが、いちばん民衆に受容されたのは、高倉健の映画や山口百恵のドラマなどの日本文化でした。

その頃入ってきた日本製品の記憶も大きいと思います。当時は松下(現パナソニック)や東芝といった日本ブランドが輝いていた頃で、デザイン、性能、信頼性などすべての面で、中国製品とは比べものにならないほど優れていた。一般の中国人にとっては高価で、あこがれの製品でした。

要するに、中国人の日本好きは今に始まったことじゃないんです。ただ、普通の中国人にとっては、日本に行きたくても行けない時代が長かった。それが、ビザ発給が緩和され、円安で日本製品にぐっと手が届きやすくなり、中国人の収入レベルも上がったことで、大勢の中国人が日本を訪れるようになったわけです。