日本を通して欧米文化を理解

その結果、欧米経由で日本文化の魅力に気づくケースもよくあるんです。たとえばスティーブ・ジョブズは、日本の枯山水をヒントにiPhoneを作りましたが、アメリカ文化が好きな若い人は、そこから禅の文化に興味を抱くわけです。「自分が好きな欧米のものは、実は日本のものだったことに気が付いた」と、「知日」という雑誌を作っている蘇静君なんかは言います。

あるいは、「エコ」や「ロハス」といった欧米のトレンドが、日本経由で中国に入ってくることもあります。明治の日本人が欧米の概念を輸入するために作った「科学」「哲学」「経済」などの和製漢語が、そのまま中国でも使われているように、中国人にとっては日本を経由すると西洋がわかりやすくなるんです。

都会に住む若い世代のプチブルの間では、ちょっと前から「小清新(シャオチンシン)」と呼ばれるライフスタイルが広まっています。シンプルでエコでおしゃれ、食の安全にも気を使う。日本の「森ガール」あたりとすごく重なる感じがしますが、実際「シンプルでエコでおしゃれ」は、若い中国人にとって日本のイメージそのものです。

そういう人たちはイケアや無印良品が好きで、村上春樹やマルグリット・デュラスを愛読。マンションの一室に畳を敷いて、日本風の部屋にすることも流行しています。セレブ層のようなゴージャスな生活にはあまり興味がなく、心と体が満たされる安心な生活、手が届く幸せを大切にする感覚を持っています。

北京の王府井書店の店頭では村上春樹をはじめ日本の小説が平積みに。(写真=時事通信フォト)

村上春樹の小説に出てくるライフスタイルって、ちょっと「日本人があこがれる西洋」の色彩がありますよね。芝生や洋楽のレコードとか、ストラスブルグソーセージとか。若い中国人の欧米に対するあこがれとも、そこはシンクロしやすいんです。

中国はなかなか異文化を受け入れないのですが、中国人の意識は常に外を向いています。外国に旅行したい、外国の大学に行きたい、できることなら移民したい。

そんな彼らにとって、外来の文化を柔軟に受け入れ、エキゾチックだけれど親しみやすい独自の文化・文明を築きあげてきた日本は、魅力的なパラレルワールドであり続けるのではないでしょうか。

 
福島香織
奈良市出身。2001年産経新聞香港支局長、02年春より08年秋まで同紙中国総局特派員を務める。現在はフリー記者として、中国を多角的に取材。著書に『本当は日本が大好きな中国人』など。
(構成=川口昌人 写真=時事通信フォト 年表=プレジデント編集部作成)
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