だが、声を大にして「積極的に体育会出身の学生を採用している」とは言えないのが、企業の本音。今回、アンケートの回答を見送った大手商社の人事担当者は「体育会出身の社員が圧倒的に多いことは確か。当社の場合は、明るくて勢いのある社風と体育会のわきあいあいとした雰囲気に通ずる部分があることから、自ずと体育会系出身者の気質を好む傾向があり、結果的に採用の場では体育会出身であることが有利に働いている」と明かした。実際にその会社の新卒社員数人に話を聞いてみると、「面接では、部活の話しか出ませんでした」と、振り返っている。
「英語」より重視される2つの能力
そこで参考になるのが、体育会系学生に特化して採用を支援しているアスリートプランニングの分析結果だ。アスリートプランニングには、近年、企業側から「体育会出身の学生を紹介してほしい」という問い合わせが増えてきているという。
「00年代前半には、英語力の高い学生や、理解力や論理的な思考力の高い、いわゆる“地頭のいい”学生を採用しようとする傾向が高まりました。その結果、企業の文化や特色と、学生のパーソナリティーとのミスマッチが増えて、離職率も上がってしまった。08年秋のリーマンショックを機に多くの企業が採用の方針を切り替え、再び体育会出身の学生に注目するようになったのです。当社を通じて体育会出身学生を探そうとする企業のうち、9割がリピーターになっています」(中村祐介社長)
企業は今、体育会出身の学生にどのようなことを期待しているのか。
「大前提として、会社員として求められる資質は2つ。組織に適応する能力と、目標を設定して達成する能力です。SNSが発達して人と直接コミュニケーションを取る機会が減ってきたなかで、この2つの能力が欠けている若者も増えてきており、これらの力を求める声が高まっている。体育会出身者は、部活動のなかで自然とこの2つの能力を身につけている、という信頼感があるのです」(同)
野村証券人事部の石黒さんも、体育会出身者は組織への適応能力が高く、「素直さ」がその後の成長と活躍につながっていると考えている。
「近年の新入社員を見ていると、自分が失敗をしたときに、素直に物事を受け止めることができない人が目立ちます。ひもといてみると、団体競技を経験してきた社員は、勝敗を分けたりするなど、自分のミスがチーム全体にどのような影響を与えるか身を以て体験してきているので、業務上のミスも“自分事”として責任を感じられる人が多い。一方で、団体競技の経験のない社員は、自分のミスも他人事として捉えてしまい、自分で反省し、成長するという経験がないのかもしれないと感じています」