ファミマ、ローソン、セブン以外という選択
【弘兼】ファミリーマートと言えば、「ユニー・ファミリーマートグループ」の筆頭株主は伊藤忠です。今年、三菱商事もローソンを子会社化しました。商社とコンビニは一見、結びつきません。
【小林】我々商社の商売の基本は、社会に貢献する、あるいは生活をもっと便利にしようとすることです。その意味でコンビニは非常に重要な位置づけになる。なぜならば、現在はコンビニですべて解決できる。ライフラインの中心になっているんです。商品を買うのはもちろん、宅配便の申し込み、税金の支払いもできます。24時間営業なので何かあれば逃げ込めるという防犯の役割もある。
【弘兼】かつて小売りと言えばスーパーマーケットでした。現在は、日本の社会構造が変化し、一人世帯が増えています。そのライフスタイルにコンビニはマッチしています。
【小林】一人世帯に対応できるような商品ライン、店作りになっています。また、飲食するスペースを設置している店も増えています。それによりコミュニティセンターのようになっているところもあります。
【弘兼】コンビニを含めると、商社の仕事は無限にあるように思えます。ただ、手がける範囲が広がると、問題も出やすくなる。小林さんもおっしゃったように、商社で大切なのは人材。採用や育成をどう考えていますか?
【小林】そこはいつも悩むところです。日本の学生の就職活動は、大多数の人にとっては「就職」ではなく「就社」を意味します。だから長期的観点で育成することになる。最初の5年から7年程度は、社会人、商社パーソンとしてのイロハを徹底的に教える。そして英語だけでなく中国語など第2外国語を習得する。そのうえで20年程度は、その道の専門家として育て上げる時間に費やす。
【弘兼】商社は海外勤務が多いというイメージですが、近年の大学生は海外に興味を示さないとも聞きます。日本全体が内向きなんですかね。
【小林】それだけ日本が住みやすいとも言えます。日本という国は明治維新以降、ヒト、モノ、カネを移動させて成長してきました。それは今後も変わらないでしょう。
【弘兼】ヒト、モノ、カネの移動と言えば、現在、日本を含めた先進国は人口が減少しています。ただ、地球全体では人口が増えている。
【小林】もはや日本市場だけではダメ。これは、ビジネスチャンスでもあります。たとえば日本に大手コンビニチェーンは3つしかありません。すでにどこも商社が関係しています。ただ、世界に目を向けると、いくらでも提携、協力できるコンビニはあります。だから、我々の市場は、日本の人口1億2700万人ではなく、世界の人口の73億人なのです。この73億人が百数十億人になっていく。そしてみんな、自分の生活を豊かにしたいと考える。それには様々な商品やサービスが必要になってくるのです。
【弘兼】需要が生まれ、供給の必要性が出てくる。ただ、情報技術の発達もあって、地球がより小さく、そして壊れやすくなった気がしています。
【小林】はい。20世紀は、ヨーロッパの景気が悪いなと言っていると、2、3カ月後にアメリカの景気が悪くなる。それから半年後ぐらいに日本やアジアの景気が悪くなっているというスピード感でした。その頃にはヨーロッパは持ち直していました。
【弘兼】ところが今はリーマンショックのように全世界で一気に経済が動く。
【小林】そうです。「何かおかしいぞ」という情報が即座に世界中に回ってしまいます。すると、大袈裟に言えば、高速道路でみんなが自動車のブレーキを踏んだような状態になってしまう。いっぺんに停まるとリスタートにすごくエネルギーがいります。変化のスピードが速く、振れ幅が大きい。そして全産業に影響が及ぶ。そうした動きに対抗できる経験と組織力を一番持っているのは総合商社だと思います。我々は全世界にネットワークを持っていますから。