専門でも集合でもなく「総合商社」
【小林】海外の投資家が商社の株を購入するとき、「この資金はどこに投じるのか」と聞かれたことがあります。自動車メーカーであれば自動車に投資することはわかる。でも、商社はそれが見えないと言う。
【弘兼】どう答えましたか?
【小林】そのときに一番いい分野に投資します、と。
【弘兼】総合商社らしい答えですね。
【小林】ただ、外国人には理解し難いようです。「では投資できません」と何度か言われたことがあります。
【弘兼】伊藤忠、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅などの総合商社は日本独自のものですよね。
【小林】ええ。同じような機能を持とうとした海外企業は過去にありました。特に1つの巨大な企業がグループ会社として商社を設けるケースが多いのですが、それはなかなか上手くいきづらい。韓国のサムスンがサムスン物産を子会社に持てば、やはりサムスンの商品が中心になってしまいます。我々は専門商社でも集合商社でもなく、総合商社です。
【弘兼】集合商社との違いは?
【小林】集合商社は、いろいろな分野を集めただけで、分野をまたいで横に連携するシナジー効果がない。うまく組織化して、分野を縦横に連携させてきたのは日本人の知恵だったのでしょうね。
【弘兼】総合商社にはそれぞれ得意分野がありますよね。
【小林】各社、経営資源をどこに投入するかという判断が必要になってきます。経営資源とは2つ。お金と人材です。お金はそれなりに都合はつきますが、人材は限りがある。ある分野に人材を投入すると、そこのレベルが上がっていく。成果が上がればさらにお金と人材を投資していくことになる。伊藤忠で言えば、それは生活消費関連分野。緩やかな「選択と集中」を進めるうちに、各社の棲み分けがはっきりしてきたのです。
【弘兼】伊藤忠はいわば、衣食住周辺で、ノウハウを蓄積してきた。
【小林】商社の差別化にはもう1つ要因があります。伊藤忠は約160年の歴史がありますが、そのうちの120~130年はほかの総合商社と同じような商売をしていました。以前の経営計画を見ると、売り上げの規模はともかく、業務の内訳はどこの商社も同じ。ただ、売上高、利益が大きければ三菱商事、小さければ伊藤忠とわかります(笑)。