ファーストリテイリングは日陰に目をつけたクオリティ企業だ。洋服の世界は、流行が当たれば儲かる、外れればボロ負けというレースを繰り返している。そこでZARAの創業者であるアマンシオ・オルテガさんが生み出したのが、「はじめから売れているものを作る」というファストファッションだ。この戦略のイノベーションが「ファストファッション」という大きな産業になり、多くの新規参入業者をひきつけた。
原点にあるのは「誘引」ではなく「動因」
ファストファッションが日向だとすれば、ファーストリテイリングの柳井正さんは日陰に注目した。競馬に例えるなら、みんなが競技場でレースをしている中で、牧場に行ったということだ。絶対に勝てる馬を自分たちで育てる。勝てる馬しか出走させない。3年かけてヒートテックを作り、東レと組んで素材開発からサプライチェーンを組み挙げていく。これはZARAに代表されるファストファッションが見過ごしていた価値創造であり、日陰ゆえに自分たちのクオリティの作りどころを見いだす優れた戦略だった。
最後に紹介したいのは、買い取り専門という新しい戦略を中古車業界に持ち込んだガリバーインターナショナル(現:IDOM)だ。伝統的な中古車販売業は、買った車を売ったときにお金を取るビジネスモデルだが、車は種類も色も走行距離もさまざまなため、マッチングが難しい。買い取った車の3割が売れれば御の字で、残りの7割はBtoBのオークションに流れる。ガリバーの場合は消費者から買うところまでは同じだが、そのままBtoBのオークションに出す。もちろん展示場もいらず、営業マンもいないためコストが下がる。それ以上に重要なのが、買い取った商品が不良在庫になるリスクから解放されるということである。
創業者の羽鳥兼一さんは、従来型の中古車業を50歳過ぎまでやっていた。自分の展示場に「激安販売」と「高価買取」の両方の看板を掲げていることに違和感を持ちながらも、「中古車屋とはそういうものだ」と思ってやってきたという。だがある時、「売らなければいい」と思いついた。どんな業界にも、見て見ぬふりをしている矛盾があり、それが日陰だ。この日陰こそが戦略ストーリーの淵源(えんげん)になるのだ。
高度成長期は帆船でいい。帆を上げて追い風を受ければガンガン進めるからだ。だが、これからはエンジンが必要だ。原点にあるのは誘引(incentive)ではなく、動因(driver)である。オポチュニティ企業の誘引は外部環境から生まれるオポチュニティにある。これに対して、クオリティ企業のエンジンは、企業が内部でつくる戦略にある。