弘兼憲史の着眼点
永瀬さんと話していて感じたのは、薩摩藩の影響。対談の中にも“郷中(ごじゅう)”という言葉が出てきました。
「子どもの頃から、地域に兄貴分のような人がいて、十五夜などには子どもたちで綱をつくって綱引きをするという風習がありました。先輩が後輩を教えるという環境の中で西郷隆盛や大久保利通が出てきたわけです」
そして、もうひとつは目線が高いこと。
たとえば少子化問題についてはこう語っていました。
「保育園や幼稚園は満杯のように見えますが、実は頭数はがくんと減っています。人口減少について、政府は何も手を打っていない。私は、第2子が生まれたら500万円、第3子ならば1000万円を払うべきだと考えています」
問題の本質をとらえて今までと違う軸で解決策を打ち出す視点は、永瀬さんが目指している「付加価値のある仕事をつくることのできる」リーダー像にも重なります。
では、なぜ永瀬さんはそのような視点を持てたのか。私が尋ねると、ラ・サール高校時代の教えに関係しているかもしれないという答えが返ってきました。
「ラ・サールはカトリックの学校ですから、授業に『倫理』の時間がありました。そこでは『宇宙にははじまりがあり、それを創ったのは神である』といった説明をされます。早い時期に、神の存在などについて考えていたことはよかったのかなと思います」
そしてこう付け加えました。
「日本経済新聞社の社長である岡田直敏さんもラ・サール出身です。彼は『フィナンシャル・タイムズ』買収という決断をしました。日本の新聞社が、英国の一流紙を買うというのはエポックメーキングなこと。ラ・サールの卒業生には、そういう大局を見てジャッジができる人材が少なくないように思います」
薩摩藩とラ・サール──。長州藩(山口県)出身の僕としては、非常に興味深い対談でした。
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。