単純な「愛国教育」は日本を滅ぼしかねない

もちろん、グローバリズムやナショナリズムの弊害には注意しなければならない。

森友学園が運営する幼稚園では、2015年秋の運動会で「日本を悪者として扱っている中国、韓国が心を改め、歴史教科書で嘘を教えないようお願いいたします。安倍首相がんばれ。安保法制、国会通過、よかったです」などと園児に唱えさせていたという。単純すぎる外国批判に、やみくもな政権賛美。これは「愛国教育」の弊害そのものだ。

とはいえ、グローバリズムやナショナリズム自体を排除すれば済む話でもない。

イギリスの首相を務めたチャーチルはかつて「民主主義は最悪の政治制度だが、ほかの政治制度にくらべればマシだ」という主旨の発言を行った。その顰(ひそみ)に倣えば、グローバリズムやナショナリズムはろくなものではないが、よりよい代替物がない以上、その問題点を十分に認識しながら、適切に使っていくしかない。

そこで愛国心であるが、この言葉をあえて使うのであれば、それは、あくまで冷静に、国民国家というシステムを無理なく維持・管理・運用する志向を意味しなければならない。稚拙な排外主義や指導者崇拝などは、このシステムを蝕む毒であって、まっさきに取り除くべきものである。

最初の問いに戻ろう。「軍歌を歌う幼稚園」で愛国心は育めるか。もはやいうまでもない。答えは明確に否である。それどころか、このような教育は日本を滅ぼしかねない。

日本の教育は今後も、世界や社会の変化を睨みながら、普遍主義と共同体主義のバランスを柔軟に取っていくべきだ。見せかけの安易な「愛国教育」に惑わされてはならない。

注1:「戊申詔書」は、日露戦争後の1908年に発布された。「青少年学徒ニ賜ハリタル勅語」は、日中戦争下の1939年に発布された。
注2:『国体の本義』は、1937年に文部省が刊行した冊子。『臣民の道』は、1941年に文部省の外局・教学局が刊行した冊子。

(時事通信=写真)
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