モチベーションの3要素

『熱狂する社員』デビッド・シロタ (著) 英治出版
――もう1つご紹介したい、モチベーションに関する理論があります。『熱狂する社員~企業競争力を決定するモチベーションの3要素』(英治出版)という本で紹介されている、3つのゴールです。その3つとは(1)公平感(2)達成感(3)連帯感です。具体的には雇用の保障とか、適切な報酬、現場への敬意などになるのですが、これは日本企業はよくできているとされます。ただ「達成感を示す」、例えばビジョンの共有や適時のフィードバック、権限委譲といったことはあまり出来ていないんですよね。

【佐田】SADAでは餅代(年末に支給する数万円のボーナス)を出すようにしたのですが、そこに手紙をつけています。また、「オーダースーツの着心地と楽しさで、日本のビジネスシーンを明るく元気にします!」というビジョンにひも付いた話は会議の冒頭で話したり、ブログやFacebookに断片的に書いているつもりでしたが、やはり常に携行できるクレド(会社が目指す価値や顧客との約束などを示した小冊子やカード)を作ろうと思います。良いと評される会社はビジョンの共有を形にしていますね。

クレドの例。いつでも見られるようにカードサイズにして社員に配布しているもの。
――京セラの場合は、朝礼で京セラフィロソフィーを読み上げていますね。その読み上げた話が、自分の仕事でどう活かせるか? ということを上長から部下に尋ねたり、ということもしています。文章をただ読み上げるだけでなく、自分の行動に接続させる。例えば「日本のビジネスシーンを明るく元気にする」とは具体的にはどういうことなのか、自分たちの体験をもとに議論したりもします。ホンダの「ワイガヤ」がそうですし、宗教学でもよく見られる「内面化」という取り組みですが、そのくらいやってもフィロソフィーを浸透させるのは大変だという話も聞きます。

【佐田】大事だと思います。「自分に関係ない」と思った瞬間に人間、興味を失いますからね(笑)。逆に自分の経験とひも付けて周囲に話していると、だんだんと腑に落ちるということはありますね。

――クレドもぜひ社員の方と一緒に作っていくと良いと思います。その方が自分たちのものとして捉えてもらいやすくなりますので。あとは連帯感ですね。欧米のビジネススクールではチームワークが大事だと口酸っぱく繰り返します。もともと個人主義が強くチームワークという考え方が浸透していないからかもしれません。一方日本では、チームワークをそれほど意識させられることは少ないのですが、現代では改めてその重要性を捉え直す必要があると考えています。SADAでは店長同士がサポートしあう、例えばノウハウを共有しあうような仕組みはありますか?

【佐田】正直、あまりないですね……。エリア分けをしてありますので、シフトを組むときに店長同士で調整を図るといったことはあるのですが。あとは、半年に1度の店長会議はありますが、それは会議なのでサポートという意味合いは薄いと思います。

――優れた店長がいるお店で、新米店長が修行をするプログラムを設ける企業もあったりします。SADAでも経験の浅い店長が、デキる店長にアドバイスをもらえる場は制度としてもうけておいた方が良いかもしれませんね。お話しを伺っていると、SADAでデキる店長になるための研修は、人事や教育機関に委ねるという性質のものではないようにも思えます。佐田さんが求めておられるレベルというのは、デキる人そのものを見てもらう、ということでしか到達できないというか。

【佐田】研修とか、上からガミガミ言ってどうにかなるものでは確かにないですね。人間性ですからね……。

――よく見られるケースとして、店長同士が競い合う関係になってしまっていて、お互いを高め合う、という理想と構造的に矛盾してしまうんですね。本来であれば真似し合うべきところも、別のやり方で勝つ、という方向にねじ曲がったりしますので。

【佐田】変な形で意固地になってしまったりすると困りますよね。チームワークという観点からは、スタッフだけでなく店長が応援に行く、という機会も作っていきたいと思いました。そのためにも、「スーパー店長」のような、ある基準を満たした模範とすべき人はこういう人だ、というものをやはり定めた方が良いですね。

――その通りです。そうしないと、教える方も遠慮が出てしまいますし、聞きたい方も教えを請いに行くということが難しくなります。誰がビジョンを体現しているかを示し、彼らを囲んで集まれる場を用意し、そして、先ほどのフィロソフィーの内面化、ワイガヤ(ホンダが生みだした部署・役職・年齢・性別などの壁を取り払った話し合いの場)のような時間を経て、「デキる店長」が育っていく、ということですね。

【佐田】なるほど納得しました。とても大事なお話を伺えたと思います。特に、社長や外部の研修ではデキる店長の育成には不十分ではというのが大きな気づきでした。正直これまでの5年間は再建に奔走していましたが、会社が次のステージに向かうためにも、ロールモデル作りからの取り組みを進めていこうと思います。

――エグゼクティブコーチングはこのような形で、いま経営者の方が抱えている悩みや、目指したい理想についてお話しを伺い、対話を通じて具体的な打ち手を探っていきます。今回は事業の拡大に呼応して、人材、店長をどう育成するかという内容になりましたが、これからも色々なトピックスが生まれてくると思います。またお役に立てる機会があれば、お声がけください!
エグゼクティブコーチ 丹羽真理(Ideal Leaders株式会社 CHO)
国際基督教大学卒業、英国サセックス大学大学院修了後、野村総合研究所に入社。エグゼクティブコーチングと戦略コンサルティングを融合した新規事業IDELEAに参画。2015年4月、人と社会を大切にする会社を増やすために、コンサルティング会社、Ideal Leaders株式会社を設立し、CHO (Chief Happiness Officer) に就任。上場企業の役員・ビジネスリーダーをクライアントとしたエグゼクティブコーチングの実績多数。社員のハピネス向上をミッションとするリーダー「CHO」を日本で広めることを目標としている。
(まつもとあつし=構成)
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