なぜ若手はロールモデルやキャリアプランを欲しがるのか

【佐田】「何を達成したら自分は店長になれるのか」という疑問を投げかけてくる人はいるので、そういった基準は示したいとは思っていますが。

――それはあった方が良いと思いますね。人事考課ではないけれども、モデルを示すということですね。ロールモデルやキャリアプランがほしい、というのがいまの若い方の傾向で、それがないと彼らは不安になってしまいます。楽がしたいわけではなくて、努力がしたいんです。でもそのための道筋はある程度示してほしいという。

【佐田】成長したいからこその問いかけであるんですね。自分たちの頃はそんなものはなかったわけですし、人生はそんなモデルがない方が面白いとつい思ってしまいがちですが、今の人たちの成長を促すには必要不可欠ということですね……。時代背景も含めてよくわかりました。

――与えられたミッションをこなしていくと着実にレベルが上がっていく、ゲームにも似ていると思います。ゲームフィケーションという手法がありますが、人材の成長にはそれがもっとも効果的である、という研究もあります。自分のスキルやレベル、持っているアイテム、他のプレイヤーから評価される立ち居振る舞い――そういったものを「見える化」することによって、人は自ら、時にはゲームのようにおカネを支払ってでも、成長しようとしていくということですね。ロールモデルやキャリアプランを示しておくことで、自ら成長しようとする動きが生まれますので、「上」からの人事考課の必要度が低くなり、「横」つまり同僚からの評価の方が変化を生んだりもするんです。

【佐田】なるほど。360度評価のような仕組みは整えるのは大変なのに、いざそれに基づいて評価を始めると、だんだんと機能しなくなるのが気になっていました。まずは目指すべき姿を示す、ということですね。

――例えば目指すゴールが店長であれば、「こういうスキルは備えていてほしい。そのためにはこの研修は少なくともクリアしていなければならない」というように具体化していくと良いと思います。

【佐田】試験日が土日であるので、なかなか受験してもらいにくいのですが、販売士のような資格制度を利用するのもよさそうですね。あとは人格・性質的なところでは京セラさんのように、なにかフィロソフィーのようなものを明確にしていきたいと思います。

――店長さんやスタッフの方に、そういったものを作ってもらうというのも手です。

【佐田】なるほど! また自分で作って押しつけようとしていました(笑)。私自身、後継社長としてSADAにやってきましたので、現場に任せるしかないとはわかっているのですが、多くのベンチャー経営者がそうであるように、つい「ここは自分でやりたい」となってしまうんです。

――それは事業に対する熱心さの現れではありますね。ただ、現場に任せた方が、より現場に即したものになりますし、何よりも佐田さんの時間を有効に使えます(笑)。先ほど言われたように言語化できない要素も多いはずですが、それでもできるだけ具体的に「デキる店長は何が違うのか」という点を明確にしていくのが大切です。

【佐田】具体的に明確にするというのは、例えばどんなことをするのでしょう?

――例えば、若い店長候補のような方に、デキる店長を観察してもらって、「すごい!」と感じた点をまとめてもらうといった方法があります。そして、店長ではない人に文章に落とし込んでもらうのが大事です。できている人がまとめた文章というのは、それができない人には理解できないということに、得てしてなりがちだからです。制作段階を任せて、スタッフがみな自分たちで作ったフィロソフィーは、そこに思い入れもありますから、それに沿って行動しようというモチベーションも自然に生まれてきますよ。