たとえば、大阪・中之島の再開発で建て替えが予定されている朝日新聞の大阪本社ビル。同地域の容積率は1000%だが、朝日新聞相手で国土交通省が日和ったのか、特区(都市再生特別地区)認定という訳のわからない理屈で1600%という突出した容積率が認められた。横車を押したはずの朝日新聞も静観を決め込み、竣工すれば(2013年完成予定)、日本有数の容積率の建築物になるだろう。

もともと中之島は、堂島川と土佐堀川にはさまれた中州地帯であり、地盤が脆弱な埋め立て地。つまるところ、容積率の基準値に厳密な安全性や耐震性の確固たる裏づけがあるわけではなく、役人のさじ加減一つで決まるような恣意的な代物なのだ。そんな意味不明な縛りがあるから、日本の都市開発は一向に進展しない。

今、東京23区で道路や公園などを除く建物が建てられるエリアの容積率平均は136%。区別に見ると、千代田区が最も容積率が高くて563%。平均5階建てということだ。ちなみにニューヨーク・マンハッタンの容積率は、住宅街で631%、オフィス街は1424%で平均14階建てとなる。

山手線の内側だけで見ると、容積率の平均は2.6階。山手線内に匹敵する広さのパリ都心部の容積率の平均は6階だから、パリ並みにしようと思えば山手線の内側だけでも倍以上建てられる。役人が日本の経済の伸びを人為的に蓋をしている、ということだ。

パリは、ルイ14世が遷都してベルサイユ宮殿を築いた頃から街のファサード(外観)は変わっていない。200年前に出来上がった美しい街並みを未来永劫残すというポリシーで、ファサード優先、それを固定したまま、建物の内側を換骨奪胎して近代的なものにつくり変えてきたのだ。

一方で「ラ・ディフェンス」と呼ばれる副都心に超高層ビルを集中させ、パリの中心部と副都心を地下鉄でストレートに結んでいるので非常にアクセスがいい。

東京も新宿副都心と臨海新都心という2つの副都心を抱えているが、コンセプトもなく利権ありきでつくってしまったために、都心と副都心の連携も機能分担も何もない。結局、計画的な集積は行われず、交通アクセスも不便で、使い出の悪いエリアになってしまっている。

東京全体で見てもスペースがまったく有効に活用されていない。江戸川区や台東区、墨田区などの下町の容積率は100%台、つまり平均2階建てにもなっていないのだ。江戸情緒が残っているというより都市開発から取り残された寂れた風情で、そこに突然634メートルのスカイツリーが出現する、というのだから、高見の見物客が見るのは消防車も入れないような密集した住宅街である。歴史と近代を見事に調和させた街づくりで世界中から年間8000万人の観光客を集めるパリとは雲泥の差である。