アスリートファーストが聞いて呆れる

実は今はIOCも「何も国を挙げてやる必要はない」という立場を取っている。IOCといえば、かつては商業主義の権化で拡大志向の組織だった。しかし、開催地決定を巡る買収行為やチケットの不正販売などのスキャンダルが相次いで国際社会の信頼を失い、透明性と公平性を取り戻すための組織改革に迫られた。その推進役が先日、来日したトーマス・バッハ会長だ。五輪改革を進めているIOCとしてはオリンピックの開催コストが膨れあがるのは好ましくない。理由は2つあって、カネがかかりすぎると国の負担が重くなって、国民の歓迎ムードが薄れる。もう1つはカネに余裕がない国が開催地に立候補できなくなるのだ。実際、東京大会の次、24年大会の招致からボストン、ハンブルク、ローマが撤退を表明した。既存施設や仮設施設を利用してコスト削減を図る、というのがIOCの基本方針。日本のような成熟した先進国に予算3兆円を使い放題にされたら、後々の招致問題に悪影響を及ぼす。そこでIOCの横やりが入ったわけだ。

来日したバッハ会長は小池都知事、大会組織委員会、政府と個別に会談して、東京都が示した見直し案などを話し合うための4者協議の設置を提案した。小池都知事との会談では、コスト削減には理解を示しながら、バッハ会長はすでにIOC理事会などの承認を得ている競技会場の見直しには賛同しなかった。これは組織委員会の顔を立てた面も多分にあるだろう。「持続可能なオリンピック開催を目指す」という方向性についてはIOCも小池都知事も一致している。競技会場の見直し問題もそこを前提に落としどころが決まってくるだろう。

それよりも、私が気になっているのは大会日程である。8月開催など正気の沙汰ではない。アスリートファーストが聞いて呆れる。照り返しの少ないアスファルトの開発などの対策が講じられているようだが、筋違いである。

日本の真夏の殺人的な暑さを考慮すれば、64年の東京大会と同じように秋に開催すべきだ。それができないのは、アメリカの放映権を一手に握っているNBCの意向がきいているから。アメリカの秋はスポーツイベントが目白押しだから、閑古鳥が鳴いている夏にしろと言われたら、NBCから巨額な放映権料をもらっているIOCは逆らえない。一方、NBCは今年のリオで思ったような視聴率が取れずに(アメリカと同じ時間帯であるにもかかわらず)苦戦した。IOCの次の課題はNBCのエゴをはね除けることだ。東京都はオリンピックを呼びたい一心で8月開催を受け入れたが、もし小池都知事が10月開催にひっくり返せるようなら、本当に表彰モノだ。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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